物産フードサイエンス、植物由来の原料からなる多価アルコール

C&T 2023年6月15日号 56ページ

カンタンに言うと

  • アクアオールのご紹介~保湿剤の新たな使い方〜
物産フードサイエンス、植物由来の原料からなる多価アルコール
 物産フードサイエンスは、食品や医薬品などで培ったノウハウを活かして開発した化粧品向け原料「アクアオール」の提案に注力している。研究開発センターの牧田玲奈氏は冒頭、「糖アルコールの化粧品市場における活用方法としては、保湿剤としてのソルビトールやオーラルケア用途でのキシリトールが有名だ。糖アルコールについて、他原料との違いや応用方法、まだあまり知られていない可能性について紹介していきたい」と話した。

 糖アルコールを製造する上で重要になるのが、「水添」の工程で、原料糖液に高温・高圧の条件で水素を添加することで、糖アルコールが製造される。この水添工程により、糖の持つアルデヒド基がヒドロキシ基に変わり、元の糖にはない特性が生まれるが、中でも一番の特性が「安定性の高さ」である。アルデヒド基を持たない糖アルコールは、他の原料との化学的反応を起こさないために安定性が高い。高温で長時間の加熱を行ったとしても着色が起こりにくく、加熱工程の多い化粧品製造においても扱いやすい原料といえるだろう。

 牧田氏は、「糖アルコールは原料糖液からつくられるが、一般的な糖原料と何が異なるのかという質問をいただくことがある。水添前の糖原料は、反応性が高いアルデヒド基を有することで、着色や異臭の発生、皮膚の老化の原因とされている『糖化反応』につながることが懸念される。実施した抗糖化試験では、水添前の原料であるグルコースと比べ、水添後の原料であるソルビトールでは糖化最終産物の生成量が少なく、糖化リスクが少ないことがわかった」と話す。

 糖アルコールの特徴について説明した後、注力原料「アクアオール」の説明に入った。アクアオールは、植物由来のデンプンを元に製造される、加水分解水添デンプンで、「アクアオール#1」「アクアオール#2」の2グレードがあり、粘度と分子量がそれぞれ異なる(図1)

 最初に、「アクアオール#1」について、スキンケア・ヘアケアに広く利用できる保湿力や指通り向上、うねり・広がり抑制の効果について紹介した。保湿力に関するデータでは、グリセリンには劣るものの、角層水分量を増やし、肌の保湿力を向上・維持させることがわかった。さらに、毛髪の二次蒸散水含有率を測定したところ、グリセリンやソルビトール、水と比べて優れた結果が得られ、毛髪に潤いを与えることが期待できる。

 指通り向上については、保湿剤としてグリセリンまたはアクアオール#1を配合したシャンプーとトリートメントで処理した毛髪において、指通りやまとまりなどを評価した。アクアオール#1処方において、シャンプー・トリートメント時の指通りのよ2さ、ブロー後のまとまりのよさ、しっとり感について高い評価が得られ、リーブオフ系の製品においても効果を実感できることが確認された。

 続いて、アクアオール#1のアウトバストリートメントでの官能評価を紹介する。シリコーン原料を使用していない処方をコントロールとし、ジメチコンを使用した処方、アクアオール#1とジメチコンを併用した処方でそれぞれアウトバストリートメントを作成し、毛束に塗布後、乾燥させて比較を行った。シリコーン処方では、さらっとした軽い仕上がりが特徴で、指通りのいい軽い感触が高評価となった。アクアオール#1とジメチコンを併用した処方では、仕上がりの軽さ、さらっとした感触についてはシリコーン処方に及ばないものの、まとまり・滑り・指通りの良さなどの評価は、シリコーン処方に劣らない結果となった。



 次に、うねり毛髪への効果を紹介する。インド人のうねり毛束にヘアミストを塗布し、これらの毛束を高湿度環境下に24時間置き、うねりや広がりの有無を評価した(図2)。その結果、無塗布、グリセリン、ソルビトール処理ではうねりの発生が確認された一方で、アクアオール#1では、うねりや広がりがほとんど見られず、髪のまとまりを維持できていることがわかる。

 水溶性の被膜を形成するという特徴をもつ「アクアオール#2」に関しては、スタイリング、カラーケア、エモリエント効果について紹介した。

 アクアオール#2は水溶性原料の中でも耐水性を有し、ヘアスタイリング剤などにおすすめの原料であるほか、アクリル樹脂と同程度の接着性をもち、つけまつ毛など人体向け接着剤にも使用できる。

 続いて、化粧水を使用した際の効果について紹介した。アクアオール#2を化粧水に配合した際の使用感を評価したところ、塗布時はブレーキ感により重厚感が感じられるテクスチャーで、化粧水が乾いてくると被膜が形成され、べたつきのないさっぱり感が高い評価となった。

 また、化粧水塗布時の角層水分量と経皮水分蒸散量を測定したところ、アクアオール#2は角層水分量を増加させることはないが、経時変化による角層水分量の低下を抑制することや、水分の蒸散を抑制することがわかった。この結果により、水溶性原料でありながらもエモリエント効果のような働きが期待できる。

 さらに、スタイリングに関するデータを紹介した。ヘアカーラーを用いて、カールスタイリングでのセット力向上効果について、カールリテンション法を用いて評価した。その結果、アクアオール#2水溶液を塗布してカールした毛束は、一般的にスタイリング剤に使用される合成ポリマーと同等の効果を示し、高いセット力があることが確認できた。

 ヘアアイロンを用いた熱スタイリングでの感触評価では、アクアオール#2および合成ポリマーを配合したヘアミストを塗布し、乾燥させた毛束をヘアアイロンでスタイリングし、感触を評価した。その結果、合成ポリマーと比較して、アクアオール#2は、しっかりと形付きながら、やわらかさを感じる仕上がりとなっていた。

 フレーキング評価では、合成ポリマーを塗布した毛束では白い膜の乖離が観察されたが、アクアオール#2を塗布した毛束では観察されず、フレーキングを起こしにくい原料であることがわかった。また、膜柔軟性評価では、合成ポリマーとアクアオール#2の高配合膜をそれぞれ作成し、折り曲げて柔軟性を評価した。

 合成ポリマー高配合膜では割れてしまったのに対し、アクアオール#2高配合膜では、折り曲げても割れることなく、柔軟性のある膜を形成していることが確認された。

 そのほか、カラーの褪色を抑制し、色持ちを持続させる効果が期待できるという。

 牧田氏は、「化粧品表示名称は『加水分解水添デンプン、水』のみであり、同じ表示名称でのグレードの使い分けにより配合ノウハウを隠せるメリットもある。また、安定性に加え、他の多価アルコールとは異なるテクスチャーを付与することが可能だ。昨今SDGsへの関心も高まる中、植物原料由来のアクアオールは、特徴のある化粧品開発に役立てていただけるのではないか」と締めくくった。
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