第33回 余命だけではなく養命

【C&T2018年1月号7面にて掲載】

はじめに

 政府が立ち上げた「人生100年構想会議」メンバーのリンダ・グラットン氏が用意したプレゼンテーション資料を見ると、2007年に生まれた日本人(現在10歳くらいの子供)の寿命は、107歳になるのではないかという推計が示された。読者諸氏は、そこまで長生きしないだろうと思うかもしれないが、「人生は、思っていたよりも長い」という現実に直面する覚悟が必要だ。

 しかし私たちの生体反応の老化は、確実に進行している。60歳前後、つまりアラ還になればプロでも声が出なくなるが、小田和正、山下達郎、鈴木雅之、久保田利伸、八神純子のように実年齢より若く見える人も多い。もちろん老けて見える人もいる。

 人間の心臓は1日10万回打っている。私の心臓もあなたの心臓も、ゼンマイも電池もないのに、死ぬまでそうやって毎日拍動を続けている。その鼓動と共に忙しい毎日を過ごしている中で、確実に進行している老いの原因について一緒に考えてみたい。

糖化

 肌の老化は外的な要因だけでなく内側からも進んでいる。紫外線や喫煙、ストレスによる活性酸素発生による『酸化』がある。『錆びる』といっていいだろう。もう一つの『糖化』は、糖とタンパク質が結びついて熱が加わったときに起きる現象だ。例えばパンケーキは小麦粉や砂糖(糖)と卵や牛乳(タンパク質)を混ぜて、フライパンで焼くとキツネ色になる。これが糖化だ。『焦げる』ともいえる(図1)。


図1 糖化の仕組み1)

 人の身体にも同じキツネ色のAGE(終末糖化産物)が生まれる。過剰な食事で摂取した糖質が血中で余り、体を構成する細胞のタンパク質にベタベタつき体温で温められ、高血糖状態が長く続けば悪玉物質のAGEに変わる。例えばコラーゲンが糖化してAGEが増えると、茶色いシミやシワ、たるみの原因になる。

 では、どうすれば糖化とAGEの蓄積を抑えらるのか。ここでは食事面から述べる。炭水化物や菓子類、甘い清涼飲料水など糖質の取り過ぎは血糖値の急上昇を招く。野菜や海藻、キノコなどに含まれる食物繊維を、最初に取ることで糖質の吸収をゆるやかにする働きがある。よくかんで食べることも大事になる。

 AGEは生野菜や刺し身など生ものに少なく、とんかつや唐揚げなど油で高温調理した動物性脂肪食品に特に多く含まれる。加熱温度が高いほど多く発生するので、調理法は、生、蒸す・ゆでる、煮る、いためる、焼く、揚げるの順がいい。鶏の水炊きのAGE量を1とすると、焼き鳥は6倍、唐揚げは10倍になるという(図2)。


図2 糖化を防ぐ食生活1)

 焼いたり揚げたりする前に、レモン汁やワインビネガーなど酸味の強い液体に食材を浸すと糖化が抑えられ、AGEが6割ほど減るという研究報告があるそうだ。

 抗糖化の化粧品成分はEGF(ヒトオリゴペプチド‐1)のほか、カルノシン・ビタミンC・ビタミンB1・ビタミンB6・αリポ酸などがある。さらに、植物由来の成分で、AGEを抑制する効果とコラーゲンの生成をサポートする「桜の花エキス」や抗炎症作用のある「コウキエキス」、AGEを切断する「シモツケソウエキス」、この他セイヨウオオバコ種子エキス・マロニエエキス・イチョウの葉・よもぎエキスなどがある。

日本一の長寿村

 私は2016年7月より沖縄に生活していて気が付いたことがある。この原稿を書いている11月はまだ半袖生活で、亜熱帯の気候であることは誰でも承知している。もう一つある。出生率の高い県だが、元気に働くお年寄りの多さを目にする。その沖縄県の中で日本一長寿の大宜味村(図3)の住民は自然の恵みにその糧を求めて、長寿を全うし人生を謳歌している。


図3 日本一の長寿村、沖縄県大宜味村

 2015年の統計では、高齢者の村民人口分布が全国平均より多く、やはり女性の比率は高い(図4)。


図4 沖縄県大宜味村の人口分布3)

 現在の総人口はおよそ3500人だが、90才を越える長寿者が80人もいる。特にここで強調しておきたいことは、沖縄の温暖な気候は一年を通じて屋外での活動を可能にする分、この村の老人は『生きている限り現役』という意識がすごく強い。

 高齢になっても体が動く限りは畑仕事をしたり、村の伝統産業の芭蕉布の糸紡ぎをしたりと何らかの活動、労働、運動、その他村の行事やボランティア活動など社会と関わりのある活動を続けている。サトウキビの刈取り、製糖、田植えなどの農作業だけでなく家の新築や墓工事、その他村の公共的な事業などへの奉仕作業なども行っている。

 日本の伝統的食生活の長所は、(1)米が主食、(2)魚蛋白が多い、従って魚油の摂取が多い、(3)海草の摂取量が多い、(4)大豆が多いことなどが挙げられる。

 この村では、(1)秋田農村に比べ約3倍の肉類を摂取している、(2)緑黄色野菜の摂取量が3倍多い、(3)豆腐に代表される豆類の摂取が1.5倍多い、(4)果実類の摂取も多い。

 さらに特筆すべき点は食塩の摂取量である。沖縄県は厚労省が目標としている一人1日10g以下を達成している唯一の県で、大宜味村は9gだ。ちなみに比較した秋田の一農村は14gに近い値だった。

 『働き』『食べる』こと以外にもう一つある。この村の道の駅で働いている奥島ウシさんは104才だ。新規雇用した人としては日本最高齢かもしれない。ウシさんの仕事はポンカンをビニール袋に入れるだけだが、訪れたお客は皆、ウシさんからポンカンを買いたがる。

 ついでに「あやかりたい」とウシさんに触っていく。大宜味村の人に、なぜこんなに長寿で元気なのかと聞くと、その一番の要因は「なんくるないさー」。先のことをうじうじと悩まないからだそうだ。沖縄らしい楽天的な『精神面』が大きいようだ。

 「アンチエイジング」という言葉が、巷(ちまた)にあふれるようになって久しい。一般には「抗老化」と訳され、年齢を重ねることに対抗して若々しさを保つという意味だ。『人類永遠のテーマ』の一つといえるかもしれない。

 「不老は口から」--日本抗加齢医学会理事の斎藤一郎氏によると、例えば口周辺の筋肉を鍛えると、シワやたるみが改善される。食べ物をよく噛めば、脳が活性化するほか、唾液の分泌もよくなり口内の抗菌作用が高まる、など数々の効果が期待できる。斎藤氏によればもう一つ「よく話す人」も…男性より女性の平均寿命が長いのも、「それが原因!」と思ったりした。

 参考文献
 1) 日本経済新聞NIKKEIプラス1(2017年10月21日付)
 2) http://www.vill.ogimi.okinawa.jp/village_longevity/(2017年11月5日アクセス)
 3) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E5%AE%9C%E5%91%B3%E6%9D%91(2017年11月5日アクセス)
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島田邦男

琉球ボーテ(株) 代表取締役

1955年東京生まれ 工学博士 大分大学大学院工学研究科卒業、化粧品会社勤務を経て日油㈱を2014年退職。 日本化粧品技術者会東京支部常議員、日本油化学会関東支部副支部長、日中化粧品国際交流協会専門家委員、東京農業大学客員教授。 日油筑波研究所でグループリーダーとしてリン脂質ポリマーの評価研究を実施。 日本油化学会エディター賞受賞。経済産業省 特許出願技術動向調査委員を歴任。 主な著書に 「Nanotechnology for Producing Novel Cosmetics in Japan」((株)シーエムシー出版) 「Formulas,Ingredients and Production of Cosmetics」(Springer-Veriag GmbH) 他多数

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