連載コラム

化粧品のリテラシー

2021.04.08

第46回 支援ではなく知恵

執筆者:島田邦男 琉球ボーテ(株) 代表取締役

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【C&T2021年4月号7面にて掲載】

はじめに

 コロナ禍という世界的な規模の試練が、まだまだ終わりの見えない状況にある。国や自治体、大企業や零細企業すべての人々が、猛スピードの変化の中にある。

 これまで「不況知らず」と言われてきた化粧品業界が、大きな転換点を迎えている。マスク着用の日常化、不要不急の外出を控えるなど新しい生活スタイルへのシフトにより、マスクメイクが雑誌で取り上げられるなど、消費者が化粧品に求めるニーズは大きく変わりつつある。

 例えば、マスクありきの生活が前提となったため、目元を中心にアイシャドウで華やかにする「マスク映えするメイク」がトレンドになっているらしい。



 では、ヘアケアはどうだろうか。(株)矢野経済研究所1)によると、ここ数年のヘアケア市場は、事業者売上高ベースで約4500億円/年前後だ(図1)



 その市場の内訳は図2に示すように、毛髪業市場、植毛市場、発毛・育毛剤市場、ヘアケア剤市場の4分野で構成される。

 このうち、毛髪業市場は、かつら・増毛および育毛・発毛サービスの提供やそれに伴う商品販売などを対象とし、ヘアケア剤市場にはシャンプー、リンス、トリートメントが含まれる。つまり、市場の半分が商品販売を占めていることになる。

 新型コロナの影響で昨年上期からヘアケア市場も縮小したが、メイクアップ、UVケア等と比べるとその下げ幅は小さい。男女ともに髪や頭皮にストレスを抱える人が増えておりヘアケア需要は底堅い2)

 現在、他の業界から比べれば恵まれているかもしれない業界ではあるが、消費者にとってはそのストレスが深刻である。そこで、今回はコロナ禍のヘアケアの問題を考えてみたい。



ヘアケア調査

 (株)アデランスは昨年7月、コロナ禍のステイホーム期間中の髪について20~60代の男女4888人を対象としたインターネット調査結果を公表した3)

 「髪にストレス、問題はありますか?」という項目では、全体の56.7%が「ある」と回答(女性は68.1%、男性は45.3%)。男女ともに、コロナ以前より髪ストレスを感じる回数が増加した(図3)



 また、どのようなことにストレスを感じていたのか内訳を見てみると、男女ともに「髪が伸びすぎた」と「白髪が目立つ」に大きなストレスを感じていたことがわかる。「ボリュームが出る/まとまらない」や「髪が染められずプリン髪になった」女性が多い一方、男性は「抜け毛が増えた」という回答が女性より多い結果となった(図4)



 外出自粛中に行ったヘアケアについて尋ねたところ、男女ともに「ブラッシング」がトップとなり、気軽で基本的なケアを多くの方が心掛けていたことがわかる。女性では、「洗い流さないトリーメントやオイル」(39%)や「ヘアカラートリートメント」(14.8%)など髪に対するケアが男性より多かったのに対し、男性は「頭皮マッサージ」(22.3%)や「育毛剤/発毛剤」(16.1%)など、頭皮に対するケアが女性よりも多くなっている(図5)



外出禁止と脱毛症

 米国ニューヨーク市では、コロナ禍で初めての外出禁止令が発令されてから4~6週間後に、脱毛症患者数の増加が見られたらしい。

 マンハッタンなどの医療皮膚科学&美容外科で患者を診て、その治療手順を提供する皮膚科医のデンディ・エンゲルマン博士(Dendy Engelman Ph. D. 図6)によると、休止期脱毛症は「高熱や情緒的・身体的ストレス」が引き金となって起こり、医師が担当した患者のほとんどが、髪密度の50%以上に相当する毛髪が失われていたという4)

 エンゲルマン博士は、「私が診た脱毛症患者はほとんどの人が、ウイルス検査結果が陽性かつ体調が非常に悪く、その全員が高熱に冒されていた。ウイルス検査で陰性または抗体検査が陰性で、特に熱などの症状が見られない人の中にも、グローバル・パンデミックのせいで強いられた生活面の変化、たとえば、在宅勤務や検査結果が出るまでの隔離措置、外出自粛生活、未知のものに対する恐怖心などが原因で、強いストレスを感じたと訴える人がいた」という。

 さらに、コロナ禍の有無とは別に「毛髪は正常な成長期に戻るまでに4~6週間程度かかるもの」とエンゲルマン博士は語っている。

 「私は通常、血液検査で甲状腺機能やホルモン、鉄濃度、亜鉛やB12などの微量栄養素もすべて正常という結果を確認した場合は、抜け毛の防止と毛髪の再成長を促す効果のある特別なシャンプーやサプリメントを処方する」と、治療法を語っている。

おわりに

 化粧品の爆買いが話題になった時、ある中国人に「日本人は何もしないで、売れているんですね」と言われたことがあった。確かにその通りである。我々も、パリに行って高価な化粧品やハンドバックを買いあさっていたときがあった。

 しかし、コロナ禍では個人もビジネスも同じで、従来の仕事の仕方が通用しなくなっている。柔軟な適応力を身に付けて生きていく以外にない。こうすればいい、という方法を簡単に述べることすらできないのが現実だろう。

 しかし、そういう中で『知恵』を出して、少しの光明を探し出して動き始めてみる、まさに知恵比べの時代の真っ只中であると言っても過言ではない。知恵を生み出すのは誰か。

 「知恵は知識の門を通る」というが、「結果が出て、初めて知恵があった」ということであると思う。

 ――政府や自治体からの補助金・給付金の『支援』を活用しても、それ頼みには限界がある。いや、ないよりマシ程度かもしれない。誰もが、もがき苦しんでいる状況の中で、自力で『知恵』を出していけば、必ず、光明を発掘することはできる。そのために大切なのは、諦めないで続けることかもしれない。

参考文献 
1)https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2579(2021/1/17アクセス)
2)https://www.kenko-media.com/health_idst/archives/14664(同)
3)https://www.aderans.co.jp/newsrelease/detail/20200720103828.html(同)
4)https://www.cosmopolitan.com/jp/beauty-fashion/health/a33977671/more-people-are-losing-their-hair-heres-why/(同)
5)Dendy Engelman, MD: Dermatologist Midtown East New York, NY (mdcsnyc.com)(同)

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プロフィール

執筆者:島田邦男 琉球ボーテ(株) 代表取締役

1955年東京生まれ 工学博士 大分大学大学院工学研究科卒業、化粧品会社勤務を経て日油㈱を2014年退職。 日本化粧品技術者会東京支部常議員、日本油化学会関東支部副支部長、日中化粧品国際交流協会専門家委員、東京農業大学客員教授。 日油筑波研究所でグループリーダーとしてリン脂質ポリマーの評価研究を実施。 日本油化学会エディター賞受賞。経済産業省 特許出願技術動向調査委員を歴任。 主な著書に 「Nanotechnology for Producing Novel Cosmetics in Japan」((株)シーエムシー出版) 「Formulas,Ingredients and Production of Cosmetics」(Springer-Veriag GmbH) 他多数

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