第57回 当否ではなく頭皮

【C&T2024年1月号6面にて掲載】

はじめに

 サイの角の成分は骨ではない。角質で人間の髪に近いものであることをご存じだろうか。角は工芸品にも使われており、今でも薬になると信じているヒトがいるため、この2つの理由で今もサイの密漁が後を絶たない。

 その私たちヒトの髪は1カ月に約1㎝伸びる。1日に換算すると0.33㎜だ。1本で考えるとたいしたことはないが、髪は10万本ありそれが一斉に伸びるので、すべてを合わせると0.33㎜×10万本になり、1日だけで髪は33m伸びている計算になる。伸ばしているのは毛根のある頭皮である。目に見えないような当たりハズレがありあてにならないことを当否というが、今回は「当否がわからない」ではなく「頭皮がわかる」ように述べてみる。

頭皮トラブル

 頭皮トラブルを防ぐために最も大事なことは、自分の体質を理解することである。乾燥しているヒトが洗い過ぎたり、皮脂の多いヒトが保湿をしたりするのは逆効果になってしまう。ではどのように判断すればいいのか。肌の特徴は、頭皮だけにでるものではない、乾燥は、脛から始まり、腰、そして全身に広がる。自分が乾燥肌か、脂性肌を知るには、まず脛の潤いの状態をみる。
 また、フケや耳垢で体質が分かることもある。フケや耳垢が、バラバラと乾いているヒトは乾燥肌、ベタベタして湿っぽいヒトは、脂性肌の傾向がある。頭皮トラブルは、体質に合わせたケアをすれば、多くの改善はする。ケアの努力をしても、1カ月以上、トラブルが続くようであれば、皮膚科の受診をすすめる。



頭皮マッサージ1)

 漢方では血余と呼び、「髪は血液の余りもので作られている」と考えられているほど、この成長に血液が必要である。頭皮マッサージは前述のような髪だけではない。頭皮が1㎜たるむと顔が1㎝たるむといわれ、美髪と美肌の両方を目指すことになる。

 図1に頭皮マッサージの方法を示す。

 (1)4本の指の第一関節、指の腹を使ってマッサージする。
 (2)指を頭皮に密着させ地肌を引き上げるように動かし、決して頭皮を擦らない。
 (3)耳の上に指の腹をあてて下から上に地肌を引き上げるように「1・2・3」というリズムで一箇所3回ずつする。
   一箇所マッサージしたら徐々に頭のてっぺんに向かって指をずらして行く。最後に指が頭頂部を交差するまでマッサージする。
 (4)頭皮が動いていれば、目が引きあがる。
 (5)同じように生え際から頭頂部へむかってマッサージする。

 ポイントは力を入れずに呼吸を合わせてゆっくり指を動かすことで、ヘッドマッサージを行うと頭の血行が良くなり気分もスッキリする。1分間のマッサージでもいいので、1日数回、こまめに行うことが推奨される。

かゆい頭皮

 最近頭皮がかゆくて困るといわれる頭皮湿疹には3つあるという。

 湿疹体質のアトピー性皮膚炎は、皮膚の保湿因子が少なく湿度が低い10月~3月に頭皮もカサカサになる。朝にシャワーを浴びる「朝シャン」は、十分に頭皮が乾く前に出勤などすると、頭皮から水分が抜け落ち乾燥が強くなる。

 生活習慣などで起こる脂漏性湿疹は、30代後半以降で最も多く、毛穴から皮脂が過剰に出てマラセチア・フルフル菌というカビが分解して酸をつくりかゆくなる。皮脂の分泌が多くなる食生活の習慣を劇的に変える治療改善がポイントになる。

 最後に、外的刺激で最も多いのが毛染めによるかぶれで、毛染め成分が何カ月も染みついているので一度かぶれるとやっかいである。一般的にヘアマニキュアはかぶれないので心配な方はこちらの方がいい。



頭皮の生菌2)

 これまで肌や髪のエイジング要因といえば、紫外線や大気汚染などの外因性と、加齢による内因性の2つに分類されてきた。そこに第3の原因「菌による老化」があることを最近、ミルボンの研究チームが明らかにした。

 口腔内や腸内にもすむ乳酸菌の一種、エンテロコッカスの生菌(生きた菌)が、女性においては年齢が上がるにつれて増え、過酸化水素を排出する。過酸化水素とは、活性酸素の1つで、細胞を酸化し、老化を促進させるものだ。この老化した細胞が頭皮の上で次々に広がり、ハリ・コシの低下やうねり、ごわつきなどの老化悩み全般を進行させることを突き止めた。

 図2では、エンテロコッカス生菌に触れた角化細胞は、ほとんどの部分の細胞が老化している。菌に触れていない角化細胞は濃い色のままである。



 さらに、菌を抑制する成分とできた老化細胞に働く成分も同時に開発した。菌を抑制する成分BT-クリア・エレメンツと、細胞の老化を改善するCT-ケア・エレメツの2つを配合した美容液である。半年間使った女性モニターの結果(図3)では、抜け毛の減少や新生部のうねり解消、ハリ・コシの上昇が確認された。



おわりに

 そもそも、頭皮の構造は基本的に他の部位の皮膚と同じだが、頭皮は他の皮膚と比べ皮脂腺や汗腺の数が多く、その分泌量が多いため、皮脂や汗で汚れやすい部位だ。また、額や頬など他の皮膚に比べて、バリア機能や保湿機能が低くなっている。そのため、頭皮は他の皮膚よりトラブルを起こしやすい(図4)3)。

 頭皮の健康は生活のリズムを整えることが基本である。まずは睡眠で、寝ている間に成長ホルモンが分泌され、皮膚の組織を修復する。自分に必要な睡眠時間をしっかりとるようにしたい。また禁煙をすることも大切だ。タバコを吸うと毛細血管が縮んで血流が悪くなる。健康全般にいえることだが、頭皮を守るために控えた方がいい。
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島田邦男

琉球ボーテ(株) 代表取締役

1955年東京生まれ 工学博士 大分大学大学院工学研究科卒業、化粧品会社勤務を経て日油㈱を2014年退職。 日本化粧品技術者会東京支部常議員、日本油化学会関東支部副支部長、日中化粧品国際交流協会専門家委員、東京農業大学客員教授。 日油筑波研究所でグループリーダーとしてリン脂質ポリマーの評価研究を実施。 日本油化学会エディター賞受賞。経済産業省 特許出願技術動向調査委員を歴任。 主な著書に 「Nanotechnology for Producing Novel Cosmetics in Japan」((株)シーエムシー出版) 「Formulas,Ingredients and Production of Cosmetics」(Springer-Veriag GmbH) 他多数

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