大成建設 大塚史久常務執行役員インタビュー
大成建設 (東京都新宿区) は、130年を越える歴史と、40年にわたる生産施設エンジニアリングの実績を持つパイオニアとして、 特に医薬品分野で高い評価と信頼を得ている。
高度な製造環境が要求される医薬品施設の構築において、 建築・クリーンルームはもとより、150社・700件に及ぶ実績で培ったノウハウを駆使して、 生産・物流・情報の各システムをトータルでエンジニアリングしている。
このトップクラスの建設力とエンジニアリング力を、 同じく高度な製造環境が求められる化粧品施設にも応用していく。 化粧品分野への進出の狙いや事業の方向性について、 大塚史久 (ふみひさ) 常務執行役員にインタビューした。
医薬品施設エンジニアリングで№1の実績
――エンジニアリング事業設立の経緯と現状について教えて下さい。
大塚 スーパーゼネコンと呼ばれる大手5社 (大成、 鹿島、 清水、 大林、 竹中) では現在、 公共投資を含めた建設市場が次第に縮小していく中で、 エンジニアリング機能と提案力を高めて、 より上流での受注競争を制することを戦略の大きな柱に据えて事業を展開しています。
当社の主要分野の1つである医薬品施設エンジニアリングを例にとってお話します。
当社では、 医薬品施設のエンジニアリングについては、 厚生省 (現在の厚生労働省) から医薬品に関するGMPのガイドラインが出された1974年 (昭和49年) に他社に先駆けてスタートしました。 それ以来、 製造施設にかかわる運用面、 運営面、 レギュレーション対応、 省人化、 省力化、 FA化を含めたトータルサポート体制を確立し、 提案力に磨きをかけてきました。
当社に対して施設エンジニアリングの依頼が多いのは、 GMPをはじめ様々なレギュレーションを熟知した上で建築と生産設備が一体となった提案ができることが評価されているからだと思います。 少なくとも医薬品施設に関しては、 「大成建設が建築した施設=品質確保が万全」 ということで、 お客様に対するアピールポイントになっています。
現在では、 建築・クリーンルームはもとより、 長年の実績で培ったノウハウを駆使して、 生産・物流・情報の各システムをトータルでエンジニアリングしてきたことが評価され、 医薬品業界において№1の150社・700件に及ぶ実績を有するまでに成長しました。
――医薬品業界では№1の実績とのことですが、 具体的な数値をもとに解説して下さい。
大塚 医薬品メーカー大手30社の設備投資額は、 研究所も含めて年間3000億円と言われています。 医薬品メーカー全体では約2000社あり、 市場全体の設備投資額は6000億円となると言われています。 そのうち実際に工場建設に向かうのは、 約半分の3000億円と見ています。
当社の2007年度における医薬品施設エンジニアリングの完成工事高は約500億円ですので、先程の市場規模に当てはめると全体の16%を占め、二番手以下に大きな差をつけています。この数字がどれほどの意味を持つのかと申しますと、大手ゼネコン5社の建築市場全体(約50兆円)に占める割合は12%に過ぎないことを見れば明らかです。つまり、建設業界においては、市場の16%を占めるというのは大変なことと言えます。
あらゆる顧客ニーズに対応すべくシステム設計機能も自社内に保有
――今、 化粧品施設のエンジニアリングに力を入れる狙いは。
大塚 医薬品を中心に手掛けてきた高品質かつ高効率な機能設計は、 化粧品の施設計画にも十分対応が可能であると考えました。 医薬品、 化粧品においては、 品質の確保が大きなテーマでありますので、 医薬品施設の構築で培った技術力というものは、 化粧品にも展開できると考えています。
ここ数年、 製薬メーカーをはじめ健康食品、 酒造などの異業種から、 自社技術を応用しつつ、 化粧品市場に参入するケースが増えています。
こうした傾向も後押しし、 化粧品受託メーカーへのアウトソーシングは進んでいるものと思われます。 薬事法改正では、 品質責任の所在が製造者から販売者へ移ったことが、 一つのドライビングフォースとなり、 化粧品受託メーカーへのアウトソーシングを加速させた側面はあると思います。
アウトソーシングが加速するにつれ、 化粧品を製造していないものの、 販売責任を問われる本舗メーカー等の受託メーカーに対する要求レベルが高くなっています。 実際に医薬関係者からお聞きした話しですが、 行政の査察よりも委託者からの査察の方が厳しくなっているようです。
こうした点からも、 今後は化粧品施設についても建築と生産機能を一体でマネジメントする形にならざるを得ないだろうと思っています。
――競合他社と比較した場合のメリットは。
大塚 当社は、 様々な企業の施設エンジニアリングを手掛け、 多くの経験を積んでおりますので、 先進の技術やノウハウを提供することができます。 また、 建築やプラント設計、 製造設備、 環境計画、 ロジスティックス、 IT関連も含めて全て自社で手掛けておりますので、 そういう面が他社との差別化につながり、 当社の大きな強みとなっております。
高度な製造環境が求められる医薬品、 化粧品施設においては、 建物を建築し、 機器を入れてしまえばすぐに生産できるという訳にはいきません。
そこには当然、 IT技術を使った製造管理、 品質管理が必要になります。 その他、 建物としてのバリアの築き方 (交差汚染防止)、 空調システムのあり方 (作業室内の清浄化)、 気圧コントロールなど、 いろいろな技術要素が必要になります。 今お話しした施設設計に関わるごく一部のことだけを見てもかなりの技術的要素が必要なことがご理解いただけると思います。
化粧品施設を新設する場合には、 コストの半分は建物に関わる部分です。 そうすると、 建物のコストを抑えようと考えがちですが、 むしろこのケースでは、 全体的に機能を落とさずにコストセービングしていくノウハウが必要になってきます。
当社では、 運用設計とシステム設計の機能を自社内に持っております。 実際に工場が稼動した際に人・モノ・情報がどのように動くかを的確に掴んでいない限りシステム設計はできません。 施設設計の際に必要なのは、 実際に工場が稼動した時点で起こる様々なケースを事前に想定する能力であり、 こうした能力は普段から実践で鍛錬していないと身につきません。
我々は施設設計が佳境を迎えた時には、 実際に製造に携わるオペレーターの方にデモンストレーションする機会を必ず設けています。 お客様の納得のいくまで説明を行うことで、 稼動後に使いづらいとか、 データ処理が遅いといった不満を少なくすることができます。 システムエンジニアを外注することなく自社内に抱え、 自らシステム設計をしていることが、 当社独自の強みとなっています。
最近流行している言葉の中に、 「ワンストップソリューション」 というものがありますが、 まさに当社のエンジニアリングはあらゆる顧客ニーズに単独で応え、 ワンストップソリューションを展開しているといえます。
対価に見合う使い勝手のよい施設を提供し顧客との「win―win」の関係を構築
――顧客の多くは施設エンジニアリングに何を求めていると思いますか。
大塚 お客様はなるべくコストを抑えたいと考えており、 我々は少しでも利益を出したいと考えています。 ある意味でお客様と我々の利益は相反するといえます。
しかし、 当面の利益が相反するにしても、 最終的にお客様が対価を支払った以上に 「素晴らしい施設ができて良かった」 と思ってもらうことが重要なのです。 それがあって、 我々も適切な利益を得て良かったという商売にしたいと思います。
もともと利益が相反する中でどのように、 お客様と我々の双方が 「win―win」 の関係を築いていくのかだと思います。 そうした考え方を我々自身がしっかりと持っていれば、 潜在ニーズをしっかり掴めるだろうし、 それにお応えしていけば成功につながっていくと思います。
お客様にとっても、 低コストで得られる満足度はその瞬間のものでしかなく、 完成した施設が使い勝手のよいものであれば満足度は工場が存続する限り続いていきます。
限られた予算の中で、 メリハリのついた計画を提案できるかが重要だと思います。 例えば、 化粧品の製造工程においてはハイグレードな設備を提案しつつ、 品質には直接関係のない梱包工程では異物混入や防虫への対策をとりつつも設備のグレードは落とすなど、 メリハリのついた提案をすることが大事だと思います。
エンジニアリング機能をさらに高め化粧品施設の受注でも№1を目指す
――化粧品施設エンジニアリングの市場性をどのようにお考えですか。
大塚 化粧品の市場規模は1兆5000億円と言われています。 医薬品の約4分の1ですが、 医薬品に換算すると、 量的規模は3兆円レベルに達すると考えられます。
そうすると化粧品施設に関わるエンジニアリング市場は、 全体で1500億円程度になるのではないかと考えています。
――今後の具体的な目標を教えて下さい。
大塚 当社としては、 たとえ部分的であろうともエンジニアリング機能が発揮できる仕事を増やしていきたいと思います。 それが第一の目標であります。
既に化粧品メーカー数社よりオファーを頂いておりますが、 その多くがエンジニアリングの要素も含んだ案件です。
今後については、 業界№1クラスの建設力とエンジニアリング力という二つの力を一つの会社が有するアドバンテージを広く世の中にアピールするとともに、 施設構築における様々な機能をより一層磨き上げることで同業他社との差別化を図りたいと考えています。
最終的には、 コスト競争で不毛な戦いをするよりも、 より上流のところでエンジニアリング機能の優劣により勝負していきたいと思っています。
機能や提案力をさらに磨き上げ、 実績を積み重ねていけば、 結果として薬粧業界において確固たるステータスが出来上がっていくと思います。
当社にとっても、 建物の仕事だけではなく、 エンジニアリング的な要素を含めた仕事をしていかないと本当の実力が備わりません。 エンジニアリング的な要素を強めることにより、 結果として化粧品施設のエンジニアリングにおいてもトップランナーを目指します。
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この記事は週刊粧業 掲載
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