東日本大震災やタイにおける洪水被害などにより、被災リスクを事前に想定し、その対策を講じる必要性を認識する企業は確実に増えていると思われる。しかしながら、複数の事業所を有する企業においては、いつ、どこで自然災害が発生するかもわからない中、どこから着手すべきかで悩むケースも少なくない。
しかも、減災対策といっても発生するリスクは多様であるため、全てのリスクを特定してその発生確率を下げるには大変な作業量と投資が必要になる。これを効果的に実施するには、生産機能に必須のリソースが被災した場合の生産機能へのインパクトを評価し、優先順位を付けることがまず重要になってくる。
こうした災害や事故から企業を守り存続させるためにあらかじめ作成する計画のことをBCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)といい、危機発生時に重要業務が中断しないこと、または中断しても可能な限り短い時間で再開できる目途をつけることに世の注目が集まりつつある。
そこで今回は、多くの企業のBCP策定を手掛けてきた大成建設 ライフサイクルケア推進部 FM推進室の関山雄介課長に話を伺った。
――BCP策定に関し、ニーズや依頼内容に変化はありますか。
関山 東日本大震災が起こる前は、リーマンショックの影響で問い合わせが減少傾向にあったが、震災以降は、今後30年以内の地震発生確率が87%といわれる東海・東南海・南海連動型地震を警戒する企業からの問い合わせが増え、問い合わせ数も増加に転じた。特に静岡県内の企業からの問い合わせが多い。
生産施設面では、震災前には被災後の生産継続に関心を寄せる声が多かったが、震災後は天井の崩落から従業員をどう守っていくかに関心を寄せる声が増加傾向にある。
また、これまでの依頼内容を振り返ると、特定の製造ルームなどピンポイントでの耐震対策が多かったように思うが、最近では、国内外の全工場を俯瞰してどこから対策を講じていくべきかといった具合に、考え方そのもののレベルがアップしているように感じる。
そうした依頼が増えてきているため、建物の損失率という視点で、地震発生時に複数の建物がどの程度の損失を受けるかを弾き出すシステムを構築した。これを活用すれば、数百箇所の施設でさえ簡易に損失率を弾き出し、損失率の高い順に表示が可能である。
さらに、これまではそれぞれの施設責任者がかかわるケースが多かったBCP策定に、上層部が関与し始めていると感じることが多くなってきた。
東日本大震災では、サプライチェーンが寸断されてしまい、工場だけの対策では完結しないということがようやく理解され始めた。これまでの大震災は、阪神・淡路にしても、新潟県中越沖にしても局所的なものであったが、東日本大震災は被災地域が東北地区全域に及んだことも大きく影響している。
――東日本大震災を機に、BCPのあり方についても変化していますか。
関山 地震により施設が被るリスクだけでも全てを拾いあげていくと膨大な数になる。また、順番を決めながら対策を講じている最中に地震が起こった場合には、減災することはできても、重要業務が中断する可能性はゼロにはならない。
そこで最近では、結果からまず対応を考える「結果事象」が重視されている。
例えば、自社工場の生産が完全にストップしてしまった場合、別の工場で代替生産できないのか、他社に生産を委託できないのかについて検証し、それで乗り越えられるのであれば、あとは減災対策を極力実施するという流れになっており、はじめに肝を抑える考え方が主流になっている。
――BCPはどのように構築していくのですか。
関山 会社の全体像を掴まないと、どの施設から手を付ければいいのかがわからないので、まずは、基幹製品をつくるのにどの施設を活用しているのかを定義してもらっている。それをしっかりとおさえれば、あとはその脆弱性を検証する作業に移っていくことになる。
例えば、構造体自体が被災しなくても、建築二次部材や生産装置、建築設備などの被災により生産そのものができなくなるケースも想定される。
そこで当社では、直接現地に赴き、考えうるリクスを1個1個検証し、その調査結果をレポートとしてクライアント企業に提出している。
リスクは3段階で評価し、影響度合いの高いものから優先順位をつけているので、どの対策から着手すべきかがすぐにわかるようになっている。レポート自体が、次の予算組みにも使えるため、ここへきて引き合いは増えている。
――優先順位はどのようにつけているのですか。
関山 製造プロセスの中でどの経営資源を使っているのかを紐解いていく。例えば、電気系統が使えなくなるとエアコンプレッサーが止まり、化粧品のパッケージができないケースでも、手作業でそれをカバーすることができれば優先順位は低くなる。
一方、排水処理施設が使えなくなり、排水処理ができないために生産がストップしてしまう場合は優先順位が高い。通信設備がダウンすると生産管理システムがストップして生産ができない場合も優先順位は高い。
このように発生確率や発生後のインパクト、事業への影響度、復旧スピードなどをもとに優先順位づけを行っていく。
――他社との優位性は。
関山 他社と比べた場合、構造体にとどまらず、エンジニアリングの範囲まで一括して評価できるところが当社の強みだと思う。
例えば、サーバールームを被災から守りたいという依頼があったと仮定するとわかりやすい。空調からの水漏れや電気系統のダウンは、サーバーに関する知識を有し、かつ構造体や生産装置、建築設備に関する知識まで有するところでなければそのリスクを拾うことができない。つまり、あらゆるリスクを拾うことができるところが優位性だといえる。
――今後、BCPをどのように推進していきますか。
関山 今後は、地震対策BCPだけを行えばいいという訳ではないことをしっかりと説明していかなければならない。
あらゆる自然災害を考慮に入れつつ、結果事象で可能な限りの対応を考えることにより、個々のリスク低減だけに依存しない、さらに柔軟なリスク対策が可能になると考えるからだ。
※企業連載コーナー 大成建設 災害を乗り越える、BCP構築のポイントはコチラ
この記事は週刊粧業 掲載
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