精英堂印刷では2012年4月に井上吉昭氏が社長に就任し、再来年の創業100周年に向けた基盤づくりを進めている。
今春は初めて営業部に女性社員を迎えるなど、女性戦力の育成にも力を注いできた。同時にワークライフバランスの観点から社内環境の整備も進めている。
地球にやさしい水なし印刷の普及や地域への貢献など様々な施策を実践中の井上社長に今後の展望をたずねた。
女性の新人営業部隊が活躍
ユーザー目線の提案が好評
――社長就任から一年半が経ちました。現在の心境はいかがですか。
井上 昨年は無我夢中だった。例えれば前社長が打ち出したグライダーをそのまま滑空させていた感じだったが、今年は意識的にそれにエンジンをかける取り組みをスタートしている。昨年の政権交代後、円安で輸入品が平均20%値上がりし、さらに電気料金も9月から15%強値上がりした。これは前社長の時代にはなかったことであり、グライダーにエンジンをかけて高さや方向を変える必要が出てきた。再来年の2月、当社は創業100周年を迎える。その先に向けて基盤づくりを進めている。
――今春、女性の営業社員が2名入社しました。
井上 化粧品業界との取引が増えたので、女性ならではの細かい気配りができる営業を期待している。当社は98年間、営業は男性ばかりだったので心配したが、生産技術部の上野と遠藤が1年前から営業に近い仕事をしており、彼女達の指導を受けながら上手なスタートが切れた。2人とも思った以上に元気で前向きで、お客様に積極的なアプローチをしてくれており、評価も高い。本当の意味での営業のむずかしさ、苦しさはこれからだが、上手く乗り切って大きく育ってほしい。
――ワークライフバランスへの対応にも積極的ですね。
井上 女性が60歳の定年まで勤めるにあたり結婚、出産、育児の負担は大きいが、それでもキャリアを積んで力を発揮してもらうにはどのようなケアをすればよいのか、まだ営業の女性社員についてのノウハウがないので社員の意見や要望を聞きながらつくっていくことになる。例えば育児が一段落するまでは業務負担を減らし、子どもから手が離れたら本来の力を発揮してもらえる環境を準備するなど、柔軟な仕組みを考えていきたい。
――水なし印刷の普及は進んでいますか。
井上 水なし印刷は当社のコアな技術と位置づけている。水なし印刷によるパッケージ印刷が少ないことはプラスにもマイナスにも作用する。取引先が数社購買で水なし印刷と水あり印刷があると仕上がりに違いが出てしまう。完全1社購買だとこの課題は解消されるが、震災時などにリスクが発生する。しかし水なし印刷は仕上がりの美しさ、加工展開の多様性など様々な優位性があるので当社は水なし印刷メインで技術展開や商品提案を進めていく。水なし印刷は環境への優位性もあるので、それを仕事にすること自体が環境対応につながるものと考えている。今年、FSC CoC認証を取得した。今年の12月に開催される「エコプロダクツ2013」には水なし印刷協会のブース内に出展する。
――シール・ラベルコンテストに毎年出展していますね。
井上 昨年から実際に販売される製品のラベルに最新技術を取り入れたものをそのままコンテストに出品している。今年は新潟・麒麟山酒造様の限定梅酒のラベルが、かわいらしいタッチの麒麟と紅白梅をモチーフにしたデザインで、日本印刷産業連合会会長賞を受賞した。この作品は展示会「にいがた酒の陣」でも高評価を得た。取引先に採用していただいたものをコンテストに出すのはプレッシャーもあるが、来年も取引先の協力を得ながらやっていきたい。
――化粧品開発展の成果はありましたか。
井上 今回はインターフェックスジャパンと同時開催ではなく、全体の来場者は前回より少なかったようだが、中身の濃い出会いがあった。新規開拓のためのイベントとしてアプローチ先への事前告知を心がけ、いい成果が得られた。ここで出会ったお客様に女性の営業部隊が訪問して数社と取引が始まっている。化粧品業界の窓口担当者は女性が多いこともあって、女性担当者の訪問は喜ばれ、新たな展開に手応えを感じている。
――化粧品業界に対し、どのようにアピールしていきたいですか。
井上 単なる価格訴求の仕事ではなく、お客様がつくろうとしているものに少しでも付加価値を加える提案ができるような仕事をしていきたい。生産技術のマーケティング部隊と営業の女性部隊による企業訪問や、東京の展示会への出展もそのための施策であり、消費者が手にとってみたくなる、ひいてはお客様の売上げに貢献できるものを一緒につくっていきたい。東北を活性化するためにも、独自性を持った仕事を進めていきたい。
2交代制で効率アップ
今夏は20%の節電を実現
――設備投資の予定をおきかせ下さい。
井上 短時間でいいものを効率的につくる設備を入れていく必要がある。水なし印刷専用機は1999年の導入からすでに14年が経過しているので、来年の3月末に入れ替えることを決めている。東北電力の値上げを踏まえ、今夏は25%の節電を目標に全社的に取り組んだ結果、20%の節電を実現した。電気料金の値上げのコストを吸収するには通常のやり方ではできない。
仕事の仕方を根本から考え直し、長年当然のように続けてきた24時間・3交代制を今年から2交代制に変更した。これにより1日8時間、機械を止めることができる。単純計算では33%の節電にはなるが製造量は維持しなくてはならず、無謀かもしれないが、2交代制後は生産性も稼働率も上がってきており、手応えを感じている。
――地元にはどのように貢献していきたいですか。
井上 1番の地域貢献は雇用の確保だと思っている。地場の就職先として毎年、きちんと人を雇える状態をつくること。「わが社の限りない繁栄と社員の幸せによって社会に貢献する」ことを当社の社是として実践している。昨年からこの点を強調し、皆が安心して勤められる職場を目指していろいろな施策を進めている。
化粧品開発展で新規開拓
新形状パッケージに脚光
去る6月に開催された第7回化粧品開発展では今春入社した女性の営業担当者が商談に臨んだ。
営業部販売課の田中杏氏は「当社の加工技術に対し、高評価をいただいた。特にバッグ型の女性好みのフォルムが好評で、桃の手触りを表現したソフトタッチ加工も多くの女性に興味を持ってもらえた」と展示会を振り返る。
会場では昨年に続いてアンケート調査を実施した。昨年より踏み込んだ内容にすることで来年に向けたデータベースとして活用できるようにした。
昨年に続き参加した生産技術部の上野宏実氏は「昨年より来場者は少なかったが、内容の濃い商談ができた。化粧品パッケージの取引目的で訪れたお客様が多く、商談につながりやすかったと社員が口を揃えて言っている」と、実り多き展示会の様子を語る。
パッケージの形状と加工の表現力で定評のある同社だが、今回の展示会で特に注目を浴びたのが新形状パッケージだ。これは角がない平面の状態ながら立体的なダイヤカットを加工のみで表現したもの。「どうしたらこのような加工ができるのか」と多数の問い合わせが寄せられ、新規開拓につながった。
もう1つの目玉が水なし印刷によるレンチキュラー加工(視差を利用した3D加工)で、サンプル請求の依頼が多く、この技術を来年の自社カレンダーにも取り入れた。
展示会では類似した印刷加工を並べて仕上がりやコストの違いを比較するコーナーも設けた。
「ソフトタッチ加工はニスを塗布することで紙にフィルムを貼らずにソフトな手触りを表現したもの。店頭販売の化粧品メーカーが独特な手ざわりのパッケージに非常に興味を持った。フィルムを貼ると分別廃棄が難しくなるが、これなら分別せずに捨てられる」(営業部販売課 藤澤真子氏)
展示会終了後、生産技術部と営業部の女性4人が2人ずつペアを組んで企業を訪問した。女性だとユーザー目線でやりとりができ、話題も広がることから受けがよく「はげましの言葉を沢山かけてもらった」(上野氏)という。
トレンドに敏感な化粧品業界の担当者の意見はとても貴重であり、それをどのようにパッケージに落とし込んでいくかが重要である。
「これからもお客様と継続的にお付き合いができるよう、人間力や対話力を身につけたい」(田中氏)
「来春の新製品用パッケージはデザインや印刷の打ち合わせがすでに始まっている。デザインからお仕事をいただくのは初めてなので、流れを把握しながら1つ1つ覚えていきたい」(藤澤氏)
また、入社3年目の上野氏も「化粧品業界は印刷の知識が豊富な方が多く、情報量もとても豊か。営業担当者と一緒に訪問することでその場で費用の概算を出せるようになったので、昨年より話が円滑にいくようになった」と手応えを感じている。
第8回化粧品開発展の開催は10月と、印刷業界の繁忙期にあたるが社員の総力を結集して出展に臨む。
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この記事は週刊粧業 掲載
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