資生堂研究所が主導するオープンイノベーションプログラム「fibona(フィボナ)」は、ORPHEとの共同研究において、歩行の美しさに関する新たな評価法の実証に向け、本格的な実験を開始した。
同社は先行研究において「美しい歩行動作」を定義し、定量化する独自の評価法を構築してきたが、ORPHEの保有する小型センサー内蔵のスマートシューズとスマートフォンを用いた動作分析システムを活用することにより、歩行動作を簡便に評価できる新たな評価法の基盤を確立した。
これまでは「美しい歩行動作」の評価には訓練を重ねた専門家による目視評価が必要だったが、店頭などでより多くの生活者に歩行動作の分析・評価サービスを提供することを目指し、実証実験を2021年11月から開始している。
同社は、独自のR&D理念「DYNAMIC HARMONY」のもと、異業種を含むスタートアップ企業が保有する、時代の変化にスピーディーに対応した斬新なアイデア・技術を、同社の強みとする研究領域の知見・技術、商品やサービスと融合させることによって、これまでに生活者が出会ったことのない新たな美容体験をはじめとするイノベーションの創造に果敢に進めている。
都市型オープンラボとして2019年4月に本格稼働し、イノベーション創出に向けた活動を推進する資生堂グローバルイノベーションセンター(GIC)は、コンセプトを象徴する活動である「fibona」において、外部のユニークな発想やテクノロジーと、資生堂が持つ美やサイエンスの知見を融合し、世界をワクワクさせる新たな価値の創造に挑戦している。その取り組みの1つである「Co-Creation with Startups」はスタートアップ企業のアイデアをスピーディーに同社の製品やサービスに活用することを目指しており、今回連携したORPHEとは、2019年から「歩行」をテーマにした共同研究を行ってきた。
一方、資生堂は1950年から美容体操を開発・発信するなど、静的な美である顔や肌の美しさだけでなく、動いている姿、身のこなしまでが美しい動的な健康美を「アクティブビューティー」と名付け、全身美の実現を目指してきた。
2016年には、その基本動作として「歩行」の美しさに着目し、お茶の水女子大学・水村真由美教授と共同研究を実施。歩行の美しさを「動きの速さ」「姿勢の伸び」「動きの柔らかさ」の3項目の指標に集約して定義するとともに、各指標についてスコアを設定することで定量的に評価できる評価法を確立した。
また、美しい歩行に重要である体のつくりや動きを明らかにし、姿勢や歩行に関するカウンセリング、指導、トレーニングを含む動作改善プログラム「モーションビューティーメソッド」のプロトタイプを開発した。このプログラムを4週間提供することにより、歩行の美しさの改善、骨格筋指数の増加や体脂肪率の減少、心理状態の改善、表情の改善などの効果を確認している。
「モーションビューティーメソッド」は2019年からGIC 1階の「S/PARK Studio」にてサービスを提供している。同プログラム中での歩行や姿勢の評価や分析により、顧客の動作改善が期待できる一方で、複数の専門家による目視評価が必要となることから、より簡便にサービスを提供できる新たな評価法の検討を行ってきた。
今回の検証に活用したORPHEの保有する動作分析システム「ORPHE ANALYTICS」は、センサーが内蔵されたスマートシューズからのデータとスマートフォンで撮影した動画により、歩行や姿勢を簡便かつ精細に分析・可視化できる技術。2021年11月から約1カ月間、「ORPHE ANALYTICS」を活用し、測定精度の検証や顧客ニーズの把握を目的とした実証実験を実施した。
歩行評価とカウンセリングサービスを約50名に提供した結果、顧客の服装などによって分析結果に影響しない高精度の測定が可能であり、体験後に「歩行改善のアドバイスを実践しようと思う」と回答した人は全体の86%、「定期的に歩行分析をしたい」と回答した人は全体の96%にのぼるなど、今後の実用化に向けて有用なデータが得られた。
今回の実証実験により得られた知見を今後さらに深めることで、美しい歩行を実現するための高精度な分析方法やきめ細やかな改善アドバイスに至る全ての分析・評価プロセスを自動で行うことが可能になるという。
また、健康美の実現をサポートするサービス開発や、美しい動きと肌や心身の健康との関連解明も加速させ、資生堂が考える動的な健康美「アクティブビューティー」の実現へつなげていく。