粧業日報 2024年7月29日号 3ページ
カンタンに言うと
コーセーは、唇のあれやすさの一因はバリア機能を担う細胞間脂質の密度の低さにあることを発見した。唇の細胞間脂質の密度は肌よりも低いことも明らかとなり、その点が肌よりも唇があれやすい要因であるともいえる。また、リポソーム製剤をあれた唇に連用することで、その外観やあれ状態が改善することを確認した。
唇は人の印象を決める上で重要な部位であり、美しく血色感のある唇は健康的な印象を与える。しかし、ひび割れ、皮剥けといった唇あれに悩む人は多く、唇の乾燥を慢性的に感じている人も珍しくない。これらの唇のあれや乾燥に対し、リップクリームなどでの保湿は有効な手段だが、それでも慢性的な唇の不調を抱える人は少なくない。
ここで唇の構造に注目すると、皮脂腺や汗腺がない、角層が薄いということが知られている。これらは表面を保護する皮脂や汗が出てこない、バリア機能として重要な角層が少ないという点で、水分量が少ない、水分蒸散量が多いといった唇の乾燥しやすい性質をある程度説明している。一方で慢性的な唇の悩みを解消するためには、さらに別角度からのアプローチが必要と考えた。
そこで同社は、唇のあれやすさを解明することを目指し、バリア機能として重要な角層の細胞間脂質の構造に着目して研究を行った。また、唇あれへのアプローチになりうる製剤の開発を検討した。
角層の細胞間脂質は、セラミドや遊離脂肪酸といった成分で満たされた充填構造をしており、その密度が十分でないとバリア機能が低下することが知られていた。そこでこの細胞間脂質の充填構造の密度を唇と肌で比較検討した。
電子線回折という細かな充填構造を解析する手法と、赤外分光法を用いた充填密度の測定による検証を重ねた結果、唇は肌よりも細胞間脂質の密度が低いことがわかった。そのため、唇は肌よりもバリア機能が低く、内部の水分が蒸散しやすい、外部から刺激物が侵入しやすいといった唇のあれやすさにつながる新たな知見を得ることができた。
さらに、唇のあれ状態と細胞間脂質の充填構造の関連を評価するため、目視による唇あれと水分量の低さが相関している唇を対象に、電子線回折による充填構造の解析を行った。
その結果、水分量が少なくあれた唇では充填構造の密度が低く、バリア機能も低い流動相という構造が多く、一方でバリア機能が高い結晶構造が少ないことが明らかになった。このことから、唇あれを改善するためには細胞間脂質の充填構造の密度を高めることが重要であることがわかった。
次に、唇あれの改善のための製剤開発を行った。今回の発見から、唇の細胞間脂質の充填構造の密度を高める必要があることがわかったため、肌において細胞間脂質のバリア機能の改善効果が確認されているリポソームを含んだリップケア製剤を開発した。
唇あれのある30名に開発品を4週間連用してもらい、連用前後の唇の外観、水分量、水分蒸散量からあれ状態への影響を評価した。その結果、外観の改善、水分量の増加、水分蒸散量の低減といった唇あれの改善効果を確認することができた。
また、特に改善効果の高かった実験参加者の唇の細胞間脂質の充填構造の解析を行ったところ、連用前後で高密度な部分が明らかに増加しており、今回開発したリポソーム製剤による細胞間脂質への改善効果が示唆された。
以上のことから、唇があれやすい原因の1つは唇の細胞間脂質の充填構造の低さにあることが明らかになった。また、リポソーム製剤を用いることで、唇あれを改善することができることを確認できた。
この成果は今後の商品開発に応用するとともに、肌のみにとどまらない基盤研究や効果のある製剤開発を推進していく。
この記事は粧業日報 2024年7月29日号 3ページ 掲載
■マンダム、展開エリアを広げて持続的成長へ~新市場開拓・振興にM&Aも検討■コーセー、唇あれを改善するリポソーム製剤を開発◎唇は肌よりも細胞間脂質の密度が低く、あれやすさにもつながることを発見■資生堂、「2024年AW ベネフィーク 新商品発表会」を開催◎自宅ケアの効果を高める起爆剤としてナイトクリームを投入
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