粧業日報 2024年9月24日号 4ページ
カンタンに言うと
花王は、東京大学 大気海洋研究所と共同で、紫外線防止剤オキシベンゾンとサンゴの主要なストレス源の1つである高水温に対するサンゴの遺伝子発現応答の違いを世界で初めて見出した。
この知見は、さまざまな環境因子に対して、サンゴがどのような生理学的な応答をしているかを知るのに役立ち、サンゴの生育や海洋生態系を考慮したモノづくりなどへ応用されることが期待される。
近年、気候変動等によるサンゴ礁への影響が世界的に注目され、生物多様性の損失を食い止めプラスに転じさせるネイチャーポジティブの実現が国際的に重視されていることからも、サンゴ礁生態系の維持と回復、ストレス源の把握はますます重要になると考えられる。こうした中、オキシベンゾンを含む一部の紫外線防止剤の流出がサンゴに影響を与えていないか、実態解明が求められている。
サンゴ礁生態系衰退の要因としては、海水温の上昇のほか、さまざまなストレス源が議論されている。花王と東大の研究グループは、効果的な保全対策を講じるために、サンゴが実環境において各ストレスを受けた際にどのように応答するかを解明することが必要だと考えた。そこで、一般的にサンゴ白化の主要因として知られている高水温にさらされたサンゴと、一般的な環境では通常見られない高濃度の紫外線防止剤オキシベンゾンにさらされたサンゴの応答を比較した。
まず、造礁サンゴの一種であるウスエダミドリイシ成体を通常の飼育条件と高水温条件(31℃)、試験水中に4種類の濃度のオキシベンゾンを添加した条件で96時間飼育した。オキシベンゾンの濃度は経時的に測定し、濃度が維持された条件で試験を行った。飼育試験の結果、沖縄県の実海水中から検出されたオキシベンゾン量の既報最大値付近においてサンゴへの影響は確認されなかった。なお、サンゴは沖縄県知事からの特別採捕許可を受けて採捕した。
それぞれの条件で飼育したサンゴについて次世代シーケンサーを用いた遺伝子発現解析を行い、各サンゴサンプルの特徴を主成分分析で可視化した。この解析では、遺伝子発現の特徴が似ている場合、近い距離にプロットされる。
その結果、オキシベンゾン存在下で飼育されたグループは濃度依存的に直線上に配置された一方で、高水温条件のサンゴは明らかに異なる位置にプロットされた。この結果から、サンゴの高水温とオキシベンゾンに対するストレス応答を示す遺伝子発現のプロファイル(作用機序)は、一部共通する部分があるものの、明瞭に異なることが明らかになった。さらに、遺伝子機能解析の結果、高水温条件では免疫応答に関連する遺伝子群の発現が上昇し、オキシベンゾン存在下では特定のシグナル伝達経路や細胞外マトリクスに関連する遺伝子群の発現が上昇するなどの特徴がみられた。
今回、紫外線防止剤オキシベンゾンに対するサンゴの応答は、白化の主要因である高水温に対する応答とは異なる特徴があることを見出した。
生育に影響を及ぼすストレスを検出・識別することが可能になれば、サンゴ礁生態系の回復を目指すネイチャーポジティブの実現に向けて重要な情報となることが期待される。
この記事は粧業日報 2024年9月24日号 4ページ 掲載
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