粧業日報 2024年10月2日号 3ページ
資生堂はこのほど、アクセンチュアと共同で、独自のアルゴリズムを用いた処方開発AI機能を開発した。
この処方開発AI機能は、同社の化粧品開発デジタルプラットフォーム「VOYAGER(ヴォイジャー)」に搭載され、2024年2月より本格稼働した。処方開発AI機能は現在、研究員の80%以上が利用している状況で、すでに異なる専門領域の知見・技術を組み合わせ革新的な成果が得られているという。
「これまでの研究現場では、地道な実験や検証を数多く繰り返し、情報収集にも多くの時間と労力を費やしてきたが、処方開発AI機能導入後、今までのプロセスでは導き出せなかった新たな処方を迅速に開発し、今までにない革新的な価値創出が可能になると強く実感した。また、実験や検証に充てていた時間を、新しいアイデアに思いを巡らせる時間や新しい価値の種になるような知見との出会いを求める有益な時間に活用できるようになった」(千田萌生研究員)
同社には一見両立不可能に見える2つの価値を巧みに融合させることで、今までにない全く新しい美を創造してきた歴史がある。この歴史を継承し、R&D理念「DYNAMIC HARMONY」のもと、研究員の間で脈々と受け継がれデータ化が困難であった50万を超える知見や各研究領域の垣根を超えたノウハウなどの「研究開発力」を精緻にデータベース化し、先進の「AI技術」と融合した。
今回開発したプラットフォームの本格稼働により、人々の経験値だけでは導き出せない、AIとの共創から生まれる革新的な価値創出の開発スピードを上げ迅速に市場に展開することが可能になることに加え、研究員が新しいイノベーションを生み出す創造的な研究により注力できる環境づくりも目指す。
これにより、多様化する生活者のニーズに応える美のソリューションを提供し、2030年のビジョン「Personal Beauty Wellness Company」の実現に向けて着実に歩みを進めていく。
「VOYAGER」に搭載された処方開発AI機能は、イングリディエント・インフォマティクスを駆使し開発された。
この処方開発AI機能は、皮膚科学、感性科学、製剤化学などの基礎研究から得られた原料情報や処方データ、さらには容器設計に関するデータなど製品開発データを包括的に網羅している。
成分、配合量、試作品の性質や状態、感触、経時変化の安定性、品質向上のための独自ノウハウなど、まさに研究員が伝承・進化させてきた50万以上の全専門領域の研究知見を網羅した膨大なデータベースを独自のアルゴリズムを用いたAI技術で解析する。
全てのデータが揃っていない場合は、 成分、組み合わせ、経時変化の安定性など、様々な要因に関するデータを活用して、情報を予測・補完する。これにより、例えばスキンケア製剤とファンデーション製剤の製剤間を越えた比較や類似性評価が可能となり、より効率的で精度の高い化粧品開発が加速される。今後も新機能を順次「VOYAGER」に搭載していく予定で、海外の研究拠点へ本格的に展開していく。
本格稼働後は、類似処方検索を活用し、「クレンジング製剤技術」と「スキンケア処方技術」の掛け合わせから着想を得て新たな試作処方を開発するなど、次々と活用事例が生まれている。
これまでのクレンジング製剤では、濃密でリッチな泡立ちとさっぱりとした使い心地の両立が難しく課題だった。そこで、類似処方検索を活用し、クレンジング製剤技術に加えてスキンケア処方技術の知見を活用することにより、この課題を克服し、濃密な泡を維持したままさっぱりとした使い心地を両立した洗浄剤の試作処方開発に成功した。
これは、異なる専門領域の知見・技術を組み合わせることから生まれた革新的な成果であり、処方開発AI導入により、多種多様な使用感や機能を求める生活者ニーズに応える製品開発が迅速に推進できる可能性が見出された。
今後も、多様化する生活者ニーズや社会的に課題であるサステナビリティ領域など、様々な視点で処方開発AIを活用し、革新的な価値の創出を目指す。
この記事は粧業日報 2024年10月2日号 3ページ 掲載
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