アルビオンは、1956年の創業以来、「高級化粧品の第一人者として、本物志向に徹し、美しい感動と信頼の輪を世界に広げる」という企業理念の実現に向け、新しい化粧品の楽しさや感動を伝えることに努めてきた。
さらに、最近では研究施設の充実や外部機関との連携により個性際立つ商品を次々と世に送り出している。
小林章一社長に「世界一の高級化粧品メーカー」の実現に向け大切なことは何か、様々な観点から話を伺った。
経営者に必要な心構えとは
現場に行き、汗をかくこと
——1956年の創業以来、53期連続で増収増益を達成していましたが、2010年3月期に一旦それを止める決断をしました。その過程でどのようなことを学びましたか。
小林 私が営業本部長に就任した1998年年度から2008年度までの10年間で売上高は265億円から470億円まで拡大し、業績は右肩上がりの一本調子でした。
しかし、片側では常に不安があり、いつかこの勢いが止まるのではないか、閉塞感が来るのではないか、踊り場を迎えるのではないかという危機意識を持ち続けた10年間でもありました。
もちろん増収増益は企業にとって大事なことですが、2010年3月期に創業来初の減収を経験したことで、お客様お一人お一人の喜びとご満足を追求していくことが全ての基本であるということを改めて認識しました。
人生はうまくいく時期もあれば、苦しかったり悩んだりする時期もあります。苦しみ悩み抜いた数年間を経て、昨年後半ぐらいから私なりに見えてきたことがあります。
苦しいとき、悩んでいるとき、うまくいかないときの身の処し方こそ、その人の人生を決めるということです。これは会社にも当てはまり、うまくいかない時の身の処し方、過ごし方、努力の仕方、考え方によって、その会社の次の10年間が決まってきます。
会社が良いときも苦しいときも、誰のために、どこを向いて経営者が仕事をしたかによって、その企業が継続できるかどうかが決まってきます。
——ビジネスを継続させるには、どういうことが重要ですか。
小林 アルビオンでは、「マインドシェア№1カンパニーを目指す」というスローガンを毎年掲げています。時代がいかに変わろうともこの根幹が揺らぐことはありません。
売上シェア№1というのは、マインドシェア№1を目指した結果でしかないですし、それが目的になってはいけません。
いつの時代においても、マインドシェア№1を目指すことがビジネスを継続させるうえで最も重要なことですし、それしかないと思っています。
——最近よく「継続すること」「次代につなげていくこと」の大切さを提唱されていますが、そう考えるに至った背景について教えてください。
小林 もちろん理想は私の代で夢が全て実現することですが、なかなかそれは難しいです。
良い形で次の世代にバトンタッチをしていくことが大切であり、「正しいことをした」「精一杯やった」と思って人生を終えたいと思います。
経営者は、「次の世代に負の遺産を遺さない」「次の世代が収穫できるような種まきを一生懸命する」「実績を上げていく」という3つのことを常に念頭に入れながら仕事をしていくべきです。
次代を担う人物は、おそらく私とは全く異なるタイプでしょう。その人の長所や個性が経営に活かされるべきであり、決して私と似たようなタイプの人が社長になるべきではないというのが基本的な考えです。
ただし、「仕事はつくるもの」「自分から見つけるもの」という考え方だけは私と一緒でなければなりません。自分で考え行動し、新しいことに挑戦し続ける人物が出てくることを期待しています。
アルビオンでは現在、複数のブランドを展開していますが、将来ブランドを辞めるという決断を下すケースが出てくるかもしれません。そういう目線で物事をきっちりと判断できる人物がこれから先、この会社を背負っていくでしょう。
——経営者に大切な心構えとは何ですか。
小林 経営者に必要な心構えは3つあります。
1つ目は「絶えず新しいことに挑戦し続けること」、2つ目は「絶えず最悪のリスクを考慮に入れておくこと」、3つ目は「絶えず本音で語れる努力をしていること」です。
新しいことに挑戦する裏側では、絶えず最悪のリスクを考慮に入れておくことが重要です。また、お店様や会社メンバーと必死になって本音で語り合うためには、必死になって現場に行く努力をしなければなりません。
「経営者は極力現場にいるべき」というのが私の持論であり、必死に現場にいることを心がけることで、肌感覚や皮膚感覚が研ぎ澄まされます。
経営者が必死になって現場に行き、現場で汗をかくことが会社メンバーにとっても一番幸せなことであり、経営者に必要な心構えだと思います。
「創業の原点」を振り返ることは
モノづくりの根幹を復習すること
——「過去の成功体験を捨てる」ということをよく発言されています。そのように考えるに至った原点を教えてください。
小林 1998年にブランドを立ち上げた「アナ スイ」では、発売初日に新規導入ブランド一日の売上げとして世界新記録(当時)を樹立するなど成功を収めましたが、立ち上げに至るまでに10や20の失敗を繰り返してきました。つまり、新しいことに挑戦して失敗を積み重ねてきたからこそ「アナ スイ」が今でも表舞台に出ている訳です。
私は「アナ スイ」というブランドを見ると、成功を収めたときの記憶よりも、失敗した時のことをよく思い出します。
そのような目線で「アナ スイ」をずっと見てきましたので、ヒットした当時から「最初につくったものを壊しなさい」と言い続けています。ブランドカラーやコーナーのデザイン、イメージ、商品に至るまで全て壊すべきだと言ってきましたが、なかなか壊せないで現在に至っています。業績もここ数年厳しい状況が続いていますが、これをいい機会と捉えて全部やり直して欲しいです。
ただ、壊すということは当然ながらマイナス面もありますので、新しいことに挑戦し続ける片側ではしっかりリスクを計算に入れておくことが必要になってきます。
——守るべきものと変革すべきものをどう峻別していますか。
小林 守るべきは、「高級化粧品の第一人者として、本物志向に徹し、美しい感動と信頼の輪を世界に広げる」という企業理念だけです。それ以外は全て変革した方がいいでしょう。
特に、仕事の進め方や仕組みなどは全て壊した方がよく、去年やったことを壊した方がいいですし、先月やったことを壊した方がいい。そのぐらいの気迫がないと、絶対にお客様の変化についていけません。日々壊すことをし続けていかないと、新しい感動をつくることなど不可能です。
——新しいものを生み出すには、創業当時の商品を振り返ること、高級品のモノづくりにおける精神を継承していくことが重要です。
小林 モノづくりにおいては、「こんな商品があったらいいなというアイデア」と「そのアイデアを具現化しようとするチャレンジ精神」が鍵になってきます。
まず1点目としてアイデアというのがすごく大事で、そのピントがずれていると、どんなに一生懸命つくり上げてもお客様は反応しません。
例えば、我が社の看板商品にスキコンがあります。発売された当時、保湿しながら収斂するという発想はなく、それを同時に叶えてくれるということで、現在でも売れ続けています。
こうしたアイデアというのは、開発担当者一人ひとりが死に物狂いで研究・勉強し考え続けないと決して出てきません。
2点目として、こんな商品があったらいいなというアイデアを具現化していくことが重要になります。今まで誰も成し遂げたことがないということは、従来の常識ではつくれない訳ですから、未知のものに挑戦してつくっていかなければならないということです。
創業の原点を振り返ることは、モノづくりにおいて最も大切な「アイデア」「チャレンジ精神」をもう一度おさらいすることでもあります。モノづくりにこそ、アルビオンという会社の醍醐味、個性、一番の根幹部分が詰まっています。
研究者と現場スタッフの交流通じ
モノづくりの更なるレベルアップへ
——最先端の医薬品技術と化粧品技術を融合させて開発した新美容液「エクラフチュール」については、どのように評価していますか。
小林 「エクラフチュール」は、私自身すごくつくりたかった商品で、「肌でつくる」というモノづくりの原点を忘れずに、世界最先端の技術を応用してつくることができたという意味において画期的な商品であったと考えています。
研究所がなかった頃は、良いものをつくりたいという情熱に比べ、技術がついてこないということが一杯ありましたが、技術を情熱と同じレベルまで引き上げることができたという意味でもすごく思い入れが深い商品です。
技術が伴ってきたことはすごく嬉しいことですが、これに甘えることなく、より一層その向上に努めていかなければいけないと考えています。
——今春、「東日本橋研究所」をオープンしました。社歴の中でも大きな出来事でしたね。
小林 とても大きな出来事でしたし、何と言っても、研究所が現場の近くにあるというのが一番大きいですね。
東日本橋研究所には、百貨店東エリア支店も入居しており、10階の休憩スペースでは研究メンバーと支店スタッフが交流している姿をよく目にします。今後もさらに研究メンバーと現場スタッフが交流する機会を増やしていきます。
そのほか、全ての営業メンバーが一泊二日で本社に集い、商品開発や研究部、企画、デザインなど様々な部署に属するスタッフと交流する機会も設けています。
開発者の想いや工場における苦労など、モノづくりに携わる本人と直接会話ができるというのは商品を理解する上ですごくいいことですので、これからもこういう機会をどんどんつくっていきます。
創意工夫で戦ってきた経験活かし
「商品力」「接客力」で世界に飛躍
——創業来のポリシー「世界一の高級化粧品メーカーになる」についてどのように具現化していくべきとお考えですか。
小林 まずは、目の前のお客様お一人お一人に喜んでいただいて、お取引させていただいている専門店様全店で圧倒的シェア№1、百貨店様では圧倒的売上№1を実現したいです。
具体的には、最低でも月商250万円以上を専門店様全店で達成したいと考えています。
日本において圧倒的な存在感を示すことができれば、観光客の皆さんを通じてアルビオンの知名度は上がっていくでしょう。そして、欧米の高級化粧品市場へ本格的に進出する際には、その知名度を活かした戦い方ができると考えています。
欧米では、日本で展開しているラインナップをそのまま展開しても厳しいと思いますので、形を変え、品を変えていくことが当然必要になってきます。
ヨーロッパでは化粧品専門店が中心ですので、商品の絞り込みや海外向け商品の追加などもしていく必要があります。
また、肌色や気候も違いますので、本格的に参入する前までには商品構成を組み直さないといけません。
現在、その検討に入っているところです。
——欧米のグローバル企業と対等に渡り合っていくためにはどういうことが必要になってくるでしょうか。
小林 やはり、今までにない新しいことに挑戦し続けることによって、規模の面では敵わないかもしれませんが、商品力や接客力など中身で勝てることは十二分にあると考えています。
もちろん、欧米のグローバル企業に比べれば研究開発費は少ないですが、少ないなら少ないなりの工夫の仕方がある訳で、アルビオンは創業当時から創意工夫によって戦ってきました。
創業当時のメンバーは、人材がいない、モノがない、資金がないという非常に厳しい中で戦ってきましたし、やりようによってはいくらでも戦えるはずです。
私の代で夢が叶うのが一番ですし、必死になって最大限の努力はしていきますが、たとえそれが叶わなかったとしても創業者・小林孝三郎と現会長がつくったような強い礎を私もつくっていきたいと考えています。
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