アルビオンは、化粧品のもつ効果が実感できる製品を届けるために、製品開発において細胞レベルにまで着目して、独自の研究を行っている。
同時に、完成した製品の効果を科学的に検証することも欠かさず実施している。
つまり、製品化への技術検証と効果検証の両方が揃っていることが、アルビオンの製品づくりの大切なポイントといえる。
そこで今回は、研究開発に対する考え方について、染谷高士取締役研究部部長と、研究部製品研究グループの中島めぐみ氏にインタビューした。
独創的な商品をつくる上では
素材・技術・ソフトの3つが重要に
——現在の研究体制、研究開発の方向性について教えてください。
染谷 アルビオンは創業以来、世界一の高級化粧品メーカーを目指してきました。高級品とは必ずしも価格が高いというだけではなく、お客様の要望を高い次元で実現することだと思いますので、「独創的な商品の開発」を命題としております。
それを実現するべく、現在、銀座本社・王子研究室・白金研究室・白神研究所の4拠点で研究を行っています。そして、アルビオンの研究開発体制には、「都市分散型組織」「田園環境における体験型研究施設」「アライアンス型」といった3つの特徴があります。
当社では、銀座・王子・白金の3拠点を都市部に近いところに配置することで「都市分散型組織」を実現していますが、本社や営業部門に近いところで現場感覚をもってお客様の反応を実感しながら研究開発ができるといった利点があります。
一方、白神研究所(秋田県)では、「田園環境における体験型研究施設」として、パイロットファームでの自家栽培などを行っています。実際に植物を栽培し、植物エキスの有用性を調査するといった商品化までの過程を知ることは、他の成分を検討する上でも重要です。
さらに、「アライアンス型」の研究も当社の特徴です。「基礎研究」「品質保証」「安全性」「分析」といった部分について、大学をはじめとする研究機関や外部企業との連携を図るなど、外部ソースを最大限活用した研究開発に注力しています。品質保証に関して我々が最終責任を持つのは当然ですが、第三者機関で安全性を調査することも極めて大切なことです。
また、高級品としてのこだわりを商品に落とし込むためには、「右脳アプローチ」と「左脳アプローチ」のバランスを取ることも重要です。
「右脳アプローチ」は、感性やビジュアル、ひらめき、共感といったように人の心に作用するようなアプローチであり、一方の「左脳アプローチ」は、データや理論、実験、数字、グラフといったところから考えていく科学的なアプローチです。
例えば、イグニスのネイチャーシリーズは、すべて秋田県白神で自家栽培している無農薬ヨモギを使用しています。またこの夏の新商品には、雪の下で芽吹いた生命力の強い若葉からのみ抽出した「春若葉ヨモギ」を配合しています。イグニスのブランドイメージを考慮した場合、右脳アプローチで感性に訴える成分を配合することは重要ですが、それと同時に左脳アプローチで第三者機関に農薬混入の有無を検証・分析してもらうことも重要です。
——独創的な商品をつくる上で欠かせないポイントとは何でしょうか。
染谷 大きく分けて、「素材」「技術」「ソフト」の3つがあります。
「素材」の面では、独自美容成分の開発を中心に、新規性や希少性、効果のある素材を研究しています。当社のベストセラー商品「薬用スキンコンディショナー エッセンシャル(スキコン)」は、ハトムギ化粧水と呼ばれておりますが、素材自体は誰でも扱えるため、ハトムギをうたった商品が次々と世に送り出されています。そこで、1年半前のリニューアルでは、漢方薬として使用できるレベルの非常に希少性の高いハトムギ「北のはと」を採用し、更にハトムギの実から有効成分を効率よく高濃度に抽出することができる「爆砕」という新しい製法を取り入れました。原料の独自性と工程のこだわりにより、他社製品との差別化につながっています。
「技術」の面では、新規処方と新充填技術の開発がメインとなります。同じ素材を使用しても組み合わせのバランスで全く違うものができ、新しい感触のものが生まれます。また、メークアップでは、コンパクトを開けた瞬間に感動してもらえるような新充填技術の開発を行っています。
「ソフト」の面では、新規美容機器の開発や効能効果の検証を行っています。このほど導入しましたカウンセリング機器「アドバイスビジョン」は、マイクロスコープで肌を拡大した画像をお客様と一緒に確認し、キメのタイプを判定します。
最近では、セルフで手軽に診断できるようなシステムが広まりをみせていますが、アルビオンが最も大切にしていることは、美しさに人と商品でお応えし続けることです。
ですので、肌状態の判定までは機器で行い、そこから先はビューティアドバイザーが、その人に合う最適な化粧品を選ぶスタイルを構築しています。こうした機器というのは、診断ツールではなく、カウンセリングツールであるという考え方が根底にあるためです。
原料の段階で差別化する取り組みは
地道な素材探索の成果で着々と軌道に
——白神研究所では、どのような体験をし、それが通常業務にどのように生かされていますか。
中島 白神研究所に出張を繰り返すことにより、同じヨモギでも季節によって生育度合いが違うことが理解できました。具体的には、春のヨモギは柔らかく、夏を越してくると堅い葉になります。これは実際に体験しないと気づかないことです。そういった特性を商品に反映していくことも、独創性につながりますので、今後も素材一つひとつにこだわっていきたいと思います。
——研究員の皆さんは、普段どういった想いで仕事をされているのですか。
中島 我々研究員の仕事は、「アルビオンらしい独創的な商品をつくること」です。研究部には、若い研究員が多いため、新しいことにチャレンジする意欲は旺盛なのですが、新しいものを生み出すにあたっては、創業当時の商品を振り返り、高級品におけるモノづくりの精神を継承していくことがなお重要です。
ですので、販売店様向けのセミナーに積極的に参加し、創業当時の商品の知識を学ぶ機会を設けています。
最近では、さらに上を目指して商品開発を行っていることを直にお伝えし、一歩踏み込んでお聞きすることができるようになり、新たな課題をいただけるようになりました。次の開発のヒントとして積極的に活かしていきたいと思います。
——最近では、化粧品の素材を求めて海外にも足を運んでいますね。
染谷 化粧品の研究は、今までにない新しい機能、卓越した機能を持つ成分の探索、つまり素材選びから始まります。 日本で行われる展示会で見つけた素材ではアドバンテージを確保することはできません。そこで我々の方から海外の展示会などに積極的に出向くようにしています。その海外でも、敢えて食品の展示会を狙っていくといい素材が見つかります。
また、海外から寄せられるさまざまな情報をもとに、世界各地に出向き、現地の人々が愛用している薬草などをいち早く導入するケースが増えてきています。直接交渉し、場合によっては輸入手続きを我々で全て行うことなどもあります。 こうした地道な素材探索を通じて、原料の段階で差別化する取り組みは、着々と軌道にのりつつあります。
——最近発売された商品、あるいは近々発売される商品のうち、独自性があるものを幾つか教えてください。
染谷 9月17日発売の「エクシアAL ジョイグレイス クレンジングオイル」は、厳しい品質基準をクリアした純度の高いモロッコのアルガンオイルを使用しています。
また、スキコンやシフォンファンデーションに次いでロングセラーとなっている「エクサージュ ハーバルオイル」を今年10月にリニューアルします。リニューアルにあたっては、最高のオイルを探し求めて南米で万能薬として使われている「インカオメガオイル」を使用しました。高度な文明が発達していた当時から秘薬として使われていたことを聞きつけ、1年かけて商品化にこぎつけた期待の商品です。
今後はオリジナリティが最も重要
自社栽培素材による商品化を加速
——最近では、産学連携を積極化しています。
染谷 日本の場合、化粧品原料を研究している研究機関はまだまだ少なく、化粧品に使えそうな成分を医療系の研究機関などと連携し、開発段階のものを化粧品に転用するといったことも有効な試みの1つと考えています。
10月に発売予定の「アンフィネス グラヴィティ レジスタンス AD」は、日本における細胞研究の第一人者である、お茶の水女子大学・室伏きみ子教授との共同研究により開発した新規成分「リノベート cPA」を世界で初めて化粧品に応用しています。
中島 その他にも、セルロースについて大阪大学と共同研究を行っています。セルロースは天然素材で資源が豊富といった利点があり、これまでも化粧品に配合されてきました。近年、セルロースの有用性研究が更に進み、新たに見出された機能や技術がエレクトロニクス産業分野等へ応用されています。こういったセルロースの新しい技術が化粧品にも転用できないかということが共同研究の発端でした。
異分野の方々と研究を行っていくことで新たな発見がありますので、化粧品として多少でも可能性を感じた場合には、直接出向くように努めています。
——来年、ベンチャー企業と共同開発した美容液を発売されますが、この取り組みはどのような位置づけになりますか。
染谷 当社では、4ステップ(洗顔・柔軟・整肌・アクティブ)の中でも乳液(柔軟)や化粧水(整肌)に強みがありますが、今後は美容液(アクティブ)でも圧倒的なポジションを築いていきたいと考えています。
美容液は、左脳型のアプローチで最先端のサイエンスを導入していくことが重要ですので、外部企業との連携により、最先端のドラッグデリバリーシステム(DDS)の技術を美容液に応用していきます。
最先端技術を自社で開発するとなれば5~10年ぐらいかかります。美容液のような商材は成果がいち早く求められるため、優れた技術があるのであれば、躊躇なく外部のものを採用していこうと思っています。この最先端のDDS技術を全面的に採用した美容液を、来秋の発売に向けて現在、研究を重ねているところです。
——中長期的なビジョンを教えてください。
染谷 やはりオリジナリティが最も重要だと考えています。白神研究所では、オープンから3年が経ち、現在は30種ぐらいの植物を栽培しています。その中で差別化できる素材が数種類見つかってきましたので、ヨモギ以外の素材でも商品化を行っていきたいと考えています。早ければ来年度以降に商品化にこぎつけることができるのではないかと思います。
また、自家栽培だけで完結してしまうと、自己満足で終わってしまいますので、東京農業大学と共同で左脳アプローチによる科学的な裏づけをしっかりと行い、季節や品種を限定するなど自家栽培ならではの優位性を最大限に引き出していくことで、独創的な商品を生み出していきたいと思っております。
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