パッケージづくりを得意とする精英堂印刷では化粧品業界への積極的な提案が奏功し、クライアントとの信頼を培ってきた。パッケージは企画・立案からはじまり、エンドユーザーに届くまでに様々な工程を経てつくられる。そこで今回はパッケージづくりの前編として、企画・立案から校正までの5つの工程における同社の取り組みについて、渡部茂取締役生産技術部部長に語ってもらった。
①企画・立案
デザイナーの要望を具現化、カレンダーを確認ツールに
先ず、クライアントのデザイナーと打ち合わせをする。デザイナーが思い描いているパッケージのイメージをもとに、形状や加工などでどのようなことができるか検証していく。
「化粧品のパッケージは形状的に類似したものが多いが、どうすれば商品を目立たせることができるか、パッケージの持つ役割から考えていく。特殊な形状をお薦めする場合、当社の設計担当者がクライアントのイメージに合った形状を企画して提案する。さらに、当社のデザイナーかクライアントが起こしたデザインをベースに、どのような印刷や加工を施していくかクライアントを含めて相談し、進めていく」
印刷・加工によっては現実的に難しい場合もあるが、それに替わる様々なアイデアを提案するよう心がけている。その際ツールとして活用しているのが、最新技術を駆使してつくりあげた同社オリジナルカレンダーや、世界ラベルコンテストで入賞したシールラベルである。ホログラムやエンボス、コーティングなどの仕上がり感を実際に手にとって見てもらえる貴重な確認ツールとなっている。これによりクライアントが仕上がりをイメージしやすくなるため、その後の作業もスムーズに進むという。
「印刷物ではなく商品を持参して、『この色を再現できないか』と言われることもある。紙と素材が異なると全く同じ色を出すのは難しいが、コーティングで色を乗せるなど当社の加工技術によって近い色が出せる。また、化粧品ではボトルとパッケージの色を合わせたいという依頼も多い」
打ち合わせ時はパッケージサンプルもできるだけ持参する。画面という二次元の世界で完全にイメージを伝えるのは難しいからだ。
昨年新たに導入したインクジェットプリンターは、本紙校正(実際に使用する紙を使った校正)ができる。このプリンターはUV対応で特殊な紙への印刷が可能で、エンボスニスにも対応する。さらに、色の数値管理を徹底した「カラーマネージメントシステム」にも対応しているので、印刷機で印刷したものとほぼ同じ状態で色の仕上がり具合が確認できる。
昨年10月31日には同社の印刷機械で「Japan Colorマッチング認証」を水なし印刷で取得し、カラーマッチング技術をさらに高めている。
②設計
カット機で設計通り裁断、手作業で試作品を組立て
パッケージを設計するにあたり、試作品で形状を確認する。設計によるサンプルカット機で設計通りに正確に紙をカットし、試作品を作る。
「当社はサンプルカット機を3台保有する。パッケージは形状が大事なので実際にカットした試作品を提案するとお客様も選びやすくなる。表面加工を施すと、わずかだが縮むことがあるのでサイズを調整していく。この形状サンプルは1枚から作ることが可能で、組み立ては手作業で行われる」
サンプルカット機はあらゆる紙をカットできるので、色紙や、インクジェット印刷したものもカットできる。重量がある商品ならそこに合紙を貼付する。紙の折り目の太さは自在に変えられるが、細くすると耐久性が悪くなるので注意が必要だ。
「大切なのはこちらから積極的に形状提案をしていくこと。化粧品のパッケージの見せ方、色の使い方は学ぶことが多く、その経験を活かし、他業界へも様々な提案ができるようになった」
③デザイン
デザイングループ会社が創作、求められる機能との両立
デザインは基本的に同社のグループ会社であるビジュアルポストが手掛ける。ここでは6名のデザイナーが日々創作活動に励む。クライアントとの打ち合わせに同行することも多い。カレンダーやシールラベルのデザインも、彼らが担うという。
「当社の生産技術部ではマーケティングやDTP担当者もデザインに精通しており、その案も採用されることがある」。平面で見せるチラシ等とは違い、パッケージは立体的に見せるというところに大きな特徴がある。
また、パッケージには商品の品質を保つための機能はもちろん、ディスプレイを兼ねたアイキャッチ性を最大限に高めるデザインが求められている。そのため、デザインと設計担当者がコラボレートできる体制を作った。
これにより相乗効果が生まれ、一般的なキャラメル箱タイプから、高級ブランドが求める特殊形状のパッケージまで、それぞれのニーズにあった形状、デザインの一体提案が日常的に行われている。
④製版
DTPエキスパートが活躍、CMSで色の誤差を管理
設計したデータを印刷に合うように色を調整し、インクジェットプリンターで本紙校正を出力する。ここではJAGAT認証DTPエキスパートの資格を持つオペレーター達が腕をふるう。デザインデータをクライアントから入手する際は、フォトショップやイラストレーターなど一般的なソフトを使ってもらえるよう「データ入稿のご案内」で依頼する。
「オペレーターが使用するモニター画面の色はカラーマネージメントシステムで印刷機と合わせている。誤差が生じないよう、月に1回は整合作業を行い、3カ月に1回はチャート印刷をして色が合っているか確認する」
色差は「Lab」という世界共通の座標軸を使った絶対的な数値で管理する。Lはホワイト~ブラック、aはレッドグリーン、bはイエロー~ブルーの色差を表示し、その誤差はΔEという単位で算出する。数値が大きい程誤差が大きくなるが、同社はΔ3以内を基準としている。
目視も重要な作業だが、体調や照明環境、時間帯によって見え方が変わることがあるため、測色器による色管理も徹底している。色管理を徹底することによって、色のズレを早期に発見し、調整することができる。このように色差解消に努めた結果、色校正は再校の段階で了になることが多くなった。
⑤校正
CCMで特色校正も正確に、社内出力でスピーディに対応
同社は特色(プロセスカラーではない特別に作ったインキ)を得意とするため、事前に色の確認を求めるクライアントもいる。
前述したように、通常のプロセスカラー印刷物は、印刷機とインクジェットプリンターをカラーマネージメントシステムで管理しているため、インクジェットプリンターによる本紙校正でも印刷機とほぼ同等の仕上がりが確認できる。
また、出力作業は全て本社で行うため、スピーディな対応が可能。しかし特色はインクジェットプリンターでは出せないため、事前にCCM(コンピューターカラーマッチング)で特色を読み込んで色分解し、それに合わせて色を配合して微調整をかける。それを本紙に転色すれば、本機校正に近い状態で色校正ができる。
特色を使った場合も原色とコストは変わらない。
「パッケージづくりに求められるのは色々な発想。言われたものをつくるだけではクライアントに満足してもらえない。モノづくりは決まった仕様に忠実でなければならないが、その前段階では受け身ではなくいかにクライアントに有益な提案ができるかが勝負。それでこそクライアントから信頼が得られるというものだ」
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この記事は週刊粧業 掲載
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