第9回 世界一の実現に向け大切なのは国内で圧倒的な存在になること

第9回 世界一の実現に向け大切なのは国内で圧倒的な存在になること
 アルビオンは、常に物事の本質を突き詰め、業界の常識に捉われることなく、様々な政策をスピーディに実行に移すことで高レベルの成長を遂げてきた。

 小林章一社長に「世界一の高級化粧品メーカー」の実現に向け大切なことは何か、様々な観点から話を伺った。

2つのブランドの立ち上げ経験し
化粧品の面白さ、奥深さを理解

 ――20代前半は将来への不安を抱えていたそうですが、それをどう乗り越えていきましたか。

 小林 化粧品メーカーの社長は、ファッショナブルな人物がなるものと考えていましたし、化粧品という商売に夢が持てるのか自信がありませんでしたので、会社は継がないと言っていました。

 その後、アルビオンに入社し、一生懸命働いていましたが、悶々とその思いを抱え続けていました。

 局面を変えたのは、ブルガリの香水でした。何十回も手紙を書き、粘り強く交渉し、苦労の末に導入にこぎつけたのですが、新宿伊勢丹のアルビオンコーナーの片隅で販売したところ、アルビオンと同水準の売上を獲得することができました。これにより、社員の私を見る目が変わりましたし、自信にもなりました。

 その後に「アナ スイ」を導入しました。日本ではまだ無名のブランドでしたが、発売初日に開店直後のコーナーに出向くと、周囲のコーナーにお客様が少ない中、100人以上もの行列ができていました。本当にいいものをつくると女性はこんなにも反応してくれるという、興奮を伴う体験を通じて化粧品という商売の面白さ、奥深さが理解できました。初日の売上は約700万円となり、当時の世界最高売上を記録しました。

 この2つのブランド立ち上げを経て、完全に化粧品という商売に対する情熱に火がつきました。

取引店やシリーズの精鋭化で
希少性・顧客の若返りを実現

 ――創業来のポリシーである「世界一の高級化粧品メーカー」の実現に向けて行ってきた様々な政策の中で、特に印象に残っている政策を3つ挙げていただき、その理由とともにご説明いただけますか。

 小林 印象に残っている政策を上から順に3つ挙げていくと、「お取引店様の絞り込み」「エクサージュの導入」「新業態『アルビオン ドレッサー』の開発」になります。

 まず、「お取引店様の絞り込み」に至った背景ですが、私がアルビオンに入社した1988年頃というのは、百貨店業態では外資系ブランドが飛ぶ鳥を落とす勢いで売上を拡大させていました。そして、外資系ブランドの多くは1店1店を大きくすることに集中し、巨大なコーナーを設け、存在感を高めていました。

 私はそれを間近で見ていて、いつの日かアルビオンという会社で月間数千万円を稼げるようになりたいと思いましたし、それを実現するには集中することがいかに重要であるかを学びました。

 一方、当時のアルビオンは、ブランドとお客様との結びつきが強く、人数は少ないながらも、アルビオン信者ともいうべきコアなご年配のお客様に支えられていました。これだけお客様との強いつながりがあれば、店舗が減って多少不便をおかけすることはあっても、お取引店1店様1店様を強くしていけばお客様は必ず付いて来てくださるという思いもありました。

 お取引店様に対しては、売上のみならず、差別化ブランドとして貢献したいとも考えていました。

 そして、営業本部長に就任する直前の管理職集会で「2010年までに売上高を500億円にする」「お取引店数を3340店様から1800店様に減らす」ということを宣言しました。業界にもアルビオンにもお取引店数を絞り込むという発想が一切ない時代でしたので、社内には相当な反発がありましたが、この道しかないと覚悟を決めて前に進めました。

 その後、営業本部長に就任しましたので、この取り組みを確実に前進させるべく、営業の表彰規定を改め、クローズ店目標を売上目標と同格とし、2つが達成できてはじめて営業目標が達成されるというルールに変更しました。もちろんお店様との合意のうえで、絞り込みを進めた訳ですが、ルールを導入して以降は一気にお取引店様の数は減少していきました。

 やはり、自らの意志でお取引店様の数を絞ることは我々以外成し遂げていませんし、このことによってアルビオンの個性が形づくられましたので、この取り組みこそ我が人生の中で最も大きな出来事だと思います。

 2番目に印象に残っているのは、「エクサージュの導入」です。入社したころのアルビオンには、現存する「エクシア」「エクス・ヴィ」以外に、「レリューション」「フォールクリスタル」「シェルテ」というシリーズがありました。

 社員にどうしてこんなにシリーズがあるのかを尋ねると、5歳ごとに区切っているからという答えが返ってきました。それを聞き、年齢で区切るのはあくまでもメーカー都合であり、20代・30代女性の最大のニーズである「うるおい」にスポットを当てるべきと考えました。そして行き着いた答えが「レリューション」「フォールクリスタル」「シェルテ」を統合し、「エクサージュ」という新しいシリーズを立ち上げるということでした。

 現在、エクサージュは100億円を超えるシリーズへと成長し、アルビオンの根幹を支える存在になっています。このシリーズの発売を機に、これまでは接点の少なかった20代後半~30代のキャリア層を獲得できるようになりました。お客様の若返りを進められたという意味でもとても画期的なことでした。

 3番目に印象に残っているのは、「新業態『アルビオン ドレッサー』の開発」です。近年、駅ビルやショッピングセンターに入居する化粧品専門店様が撤退を迫られたり、上の階に移動せざるを得ないケースが相次ぎ、当社として新年度をスタートするにあたり、数億円のマイナスが続いてしまっていました。

 そこで行き着いた答えが「アルビオン ドレッサー」という新業態でした。数ある選択肢の1つとして、お店様にこのような提案ができたことはとても良いことでしたし、近年では最も大きなエポックと言えるでしょう。

 ドレッサー業態をつくった狙いは2つあります。1つは、専門店業態の最大の課題である「他チャネルからお客様を奪う」ことです。もう1つは、新業態を起点とした接客の見直しです。SNSが発達していく中、お客様の情報リテラシーも上がってきていますので、他チャネルからお客様を奪い、新しいタイプのお客様を獲得していくためには、接客の見直しが必要です。

 今までの接客スタイルに追加するという考え方のもと、「アルビオン ドレッサー」を通して、新しい時代の接客のあり方を検証していきます。

こだわり抜く「商品開発」と
型のない「接客」で差別化へ

 ――本物志向を支える「商品開発力」「接客力」の強化について、今後の方向性を教えてください。

 小林 モノづくりでは、お客様の期待やイメージをはるかに超える肌で実感し納得していただける商品をいかにつくれるかが重要です。その実現のために、我々は「原料・素材へのこだわり」「大学・研究機関との連携による最先端技術の応用」「独自の製造方法・製造工程」の3点を追求していきます。

 本当に効果を実感していただけるのであればどんなに高い原料でも使っていくという考えから、アルビオンには原価基準がありません。たとえ利益が多少減ろうとも本当にお客様に喜んでいただけるのであれば、積極的に原料・素材にこだわっていきます。

 まず、「原料・素材へのこだわり」の一環として、秋田県白神山地の麓に約2.7万㎡の自社農園を持ち、植物の栽培と、バイオ技術を活用して、より一層肌に効果のあるエキスの開発を進めています。それ以外にもスリランカでは東京農業大学とタッグを組み、まだ実用化されていない植物の分析や新しい成分の開拓などを行い、新たな化粧品の開発を目指しています。こうした取り組みは当然ながら原価率を高める要因になりますが、よりよい原料・素材を自ら栽培すれば、お客様の納得感がより高まりますので、引き続きこの取り組みは強化していきます。

 「大学・研究機関との連携による最先端技術の応用」にも取り組んでいきます。最新かつ最高の研究成果を全てお客様に商品という形でお届けするには、大学やベンチャー企業との共同研究、共同開発が欠かせません。先端テクノロジーの応用は、これからも積極的に進めていきます。

 「独自の製造方法・製造工程」の深堀も進めていきます。一例として、まるで素肌のように仕上がる「スマートスキン ベリーレア」というファンデーションは、他社が真似をしようと思ってもできないような手間隙のかかる、自分たちでしかできないものと自負しています。あの柔らかい感触を実現するために、普通なら断念してしまいそうな幾つもの工程を踏んでつくっていますが、そこまでやり抜くのもアルビオンらしさといえます。最近では、長期スパンで開発メンバーと研究所メンバーがタッグを組んで、理想に近づける取り組みも進めています。今までにないものを新製品のうち、2割でも3割でもつくっていけたら、アルビオンの個性が際立つと考えます。

 接客に関していうと、店頭にいらっしゃるお客様は目的も様々であれば、個性も十人十色です。ですから、お客様に合わせた接客をするために、商品知識やメークのテクニックをお客様に伝えていくことはもちろん大切ですが、お客様お一人おひとりとしっかり向き合うということを重要視しています。

 大事なことは、また来たい、またあの人から買いたい、またあの人に会いたいと思ってもらえる接客ができるかどうかであり、それが全てといっても過言ではありません。これからもこうした接客を突き詰めていきます。



米国市場進出の足掛かりとして
「アルビオン ガーデン」を出店予定

 ――国内においてやるべきことはたくさんあると常々発言されていますが、具体的にはどのようなことですか。

 小林 一番大切なことは、売上はもちろん売場環境や接客を含めて、国内で圧倒的な存在になることです。国内で圧倒的な存在になれば、SNSが発達した現代では、海外へも伝播し、アルビオンというブランドの地位が確立されるはずです。海外の人々にもアルビオンは別格だと思っていただける状況に、できる限り早くしていきます。

 具体的には、年商で2億店様が100店、1億店様が200店という目標を掲げていますが、これが達成できた暁にはある程度、圧倒的という状況になっているはずです。

 そのうち、「アルビオン ドレッサー」の割合は4割程度と見ていますし、「アトリエ アルビオン」も合算すれば5割を超えていくと考えています。

 ――海外展開を進めていくにあたっては、企業力のさらなる底上げが必要であり、優秀な管理職の育成がますます重要になってきます。

 小林 アルビオンという会社にとって最も大事なのは管理職ではなく、一般メンバーです。管理職の役割は、いかにそのメンバーの長所を引き出し、伸ばしてあげられるかです。アルビオンは現場が光る会社であり、現場が主役ということを繰り返し言い続けています。

 アルビオンにとって現場は、店頭と生産・物流の2箇所しかなく、ここがいかに働きやすくなるかを重視しています。

 アルビオンでは、ものが言いやすく、話しかけやすく、本音を言いやすい人が幹部になっていきます。威厳のある人は一人もいりません。これからも、現場のメンバーが何でも話せる、本音で語れる、そういう人を管理職に登用していきます。現場から上がってくる光る情報を吸い上げることができるような人がアルビオンの幹部になっていきます。

 ――世界一の高級化粧品メーカーになるためには、成長著しいアジアや、化粧品の本場である欧米での展開が欠かせません。アジアでの戦い方、欧米での戦い方について、それぞれビジョンを語っていただけますか。

 小林 アジアについては、日本で圧倒的な存在感が示せれば、自然と広がっていくでしょう。近年急速に拡大するショッピングセンターも非常に魅力的な業態ですので、その攻略についても知恵を絞っていきます。

 欧米市場については、総じて高級化粧品を販売する業態に活気がなく、出店してもステイタスが上がりにくいうえ、そこから学べることも少ないという状況になっています。また、ヨーロッパにおいては、セフォラやダグラスなどチェーン店のシェアが高く、我々の得意とするビジネスを展開するには難しい状況になっています。つまり、欧米では、アプローチや趣向を変えて展開していくことが必要になってきます。

 その足掛かりとして、新業態店「アルビオン  ガーデン」をロサンゼルスにある人気のレストランやショップが立ち並ぶ「アボット・キニー」というおしゃれな海岸沿いのストリートに出店を予定しています。そこでは、物販スペースのほかに、飲食スペース、イベントを行うギャラリースペース、エステスペースなど織り交ぜながら、楽しめる空間をつくっていきます。こちらについては、試行錯誤を繰り返しながら慎重に着実に広げていこうと考えています。

 一方、スパビジネスが発達するアメリカでは、スパを通じて化粧品の販売を拡大していくことも選択肢の1つではないかと考えています。実は、ニューヨークの高級ホテルにあるおしゃれなスパには、インフィオレの日本製アイテムが導入されています。我々の製品がアメリカ人にどう受け入れられるのかを検証しながら、展開方法を探っていきます。

 ヨーロッパについては正直、戦略をまだ練りきれていません。ヨーロッパの難しさは留学経験のある自分が一番よくわかっており、今は熟慮が必要と考えています。


目先の売上・利益よりも
「正しきこと」を優先

 ――最後に、座右の銘やそれにまつわるエピソードについて語っていただけますか。

 小林 座右の銘は、創業者で祖父でもある小林孝三郎が遺した「正しきことに従う心」です。

 自分の物差しで「正しきこと」と思うことを判断し、それを積み重ねて、自分の人生を納得できるものにしていきたいですし、人生の最期に自分自身を「よくやった」と評価できるようにしていきたいです。なぜなら、自分の人生を評価できるのは自分しかいないと思うからです。あと、ビジネスに関わる全ての人々が笑顔になる仕事ができたらいいなと考えています。

 座右の銘にまつわるエピソードとしては、転売業者の取り締まりとして実施した「百貨店における株主優待券と免税の併用禁止」が挙げられます。

 アルビオンの百貨店における売上比率は、日本人4割強、ツーリスト4割弱、転売業者2割となっています。転売業者の比率は最も低いですが、「正しきこと」に照らすとこの比率はさらに少なくしていくべきであり、その削減に取り組んでいます。

 昨年6月より順次、主要百貨店において株主優待券と免税の併用禁止を進めています。ある百貨店では、転売業者による大量購入により一時売上が3倍近くに膨れ上がりましたが、この取り組みを進めた結果、大幅にその売上が減少しました。

 それと並行して、昨年は韓国に免税店を出店しました。今年はT-mallと関西国際空港に出店し、来年は羽田国際ターミナルに出店します。同時に、内外価格差を1.5から1.32に下げましたので、転売が減る方向に向かうはずです。

 短期的には売上減となりますが、長い目で見ればT-mallや免税の売上が拡大していきますので、実行に移してよかったと考えています。

 肝心なのは、あくまで日本でのお客様づくりであり、国内のお客様がしっかり伸びていることの方がよほど重要です。

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