花王、ディープラーニング技術を用いた新素材開発手法を開発

粧業日報 2021年1月18日号 1ページ

カンタンに言うと

  • AIで素材開発の期間を大幅短縮
花王、ディープラーニング技術を用いた新素材開発手法を開発
 花王マテリアルサイエンス研究所と奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科情報科学領域の金谷重彦教授は共同で、材料工学分野にディープラーニング技術を適用する手法を開発した。

 今まで長期間を要していた素材開発の高速化に寄与するほか、AIがどのように予測をしているか明らかにすることで、新しい素材開発の手掛かりとなることも期待される。

 研究成果は、「第43回ケモインフォマティックス討論会」(2020年12月9日、オンライン開催)にて発表している。

 商品開発を行うには優れた素材の開発が必要であり、洗剤の場合は界面活性剤が重要な素材の1つとなるが、今まで素材開発はトライアンドエラーを繰り返す方法で行われていたため、莫大な時間と費用が掛かっていた。

 その問題を解決するため、ディープラーニングを用いてAIに大量のデータを学習させ、予測を行うことで開発プロセスを短くする方法が検討されてきた。

 しかしながら、ディープラーニングには数万個のデータが必要であり、素材開発の現場で化学反応プロセスのデータを大量に取得するには多くの費用が掛かるため、実用化に至っていなかった。

 今回の研究では触媒と樹脂を例に、少ないデータ量からディープラーニングで活性やガラス転移点の予測ができる技術の開発を行った。また、なぜその予測にたどりついたのか、解釈の方法の確立にも挑んだ。

 触媒は化学反応を速める物質で、洗剤の界面活性剤の製造などに用いられており、それを開発するには、化学反応を促進する効率を上げることが重要だ。

 今回、2級アミンとアルコールを反応させた時の銅触媒の微細な構造を電子顕微鏡で撮影し、活性が高かった場合、低かった場合の違いをディープラーニングを用いて学習させることで、活性を上げる構造を予測するモデルを作成した。

 電子顕微鏡写真143枚に対し、写真の一部を切り出す、複写する等の処理を行い、1万枚に増加させたものをディープラーニングで解析し、活性予測モデルを作成するとともに、活性が触媒のどの場所で起こっているかを確認するため、画像を作成した。



 研究チームで、作成した予測モデルを確認したところ、非常に高精度なモデルの作成に成功したことがわかった。

 また、触媒中には反応原料が拡散するための穴であるメソポア(2-50nm)とマクロポア(>50nm)が存在しているが、今回得た画像から、マクロポアの周辺の構造が活性に影響を与えているという具体的な予想が得られた。

 この知見を設計に活かすことで、より活性の高い触媒の開発につながると考えられる。



 プラスチック容器などの素材となる樹脂の開発では、形状に関わるガラス転移点を予測することが重要だ。たとえば、ガラス転移点が75℃の樹脂でつくった容器に85℃のホット飲料を入れると、容器が変形してしまう。

 そのため、用途に合わせて樹脂のガラス転移点をコントロールする必要がある。今回はポリエステル樹脂において、化学構造からガラス転移点を予測するモデルを作成した。

 不足しているデータ量を補うため、一般公開されている外部の化学構造のデータベースを読み込ませてディープラーニングで解析し、ガラス転移点予測モデルを作成した。

 さらに、化学構造のどこがガラス転移点に影響を与えているのかを確認するため、画像を作成した。



 研究チームで予測モデルを分析評価した結果、ガラス転移点の温度を精度よく予測できることがわかった。

 また、今までは、官能基の置換位置はガラス転移点に大きな影響を及ぼさないと考えられていたが、得られた画像を確認したところ、ベンゼン環に対する官能基の置換位置(オルト位、メタ位、パラ位)がガラス転移点に大きな影響を与えていることがわかった。

 この知見を設計に活かすことで、樹脂のガラス転移点をコントロールできると考えられる。

 今回の研究では、ディープラーニング技術を応用し、少量のデータからでも予測モデルを作成する技術を開発するとともに、なぜその予測にたどりついたのか、画像を用いて解釈を行う方法も確立した。

 この技術は、他のさまざまな素材開発にも応用が可能であり、これまで研究者の経験に依存してきた素材開発の場面に、データ科学を取り込み、研究者の知見と融合することで、効率的に素材開発を行うことが可能になると考えられる。
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