資生堂は、50年以上にわたり続けてきた角層研究から、今回新たに正常な角層構築・機能維持に「SERPIN B12(別名:YUKOPIN)」が関与していることを発見した。
同研究において、YUKOPINが肌のターンオーバーを促す酵素「メソトリプシン」の働きを阻害することで、角層の重層化を促進することを明らかにしたことに加え、YUKOPINの発現を抑制する薬剤を見出すことに成功した。
さらに、加齢に伴い角層が重層化した肌では、グリセリンやトラネキサム酸などのスキンケア成分の浸透が妨げられることを確認した。つまり、YUKOPINに着目したアプローチを行うことで、角層を健やかに保ち、日々の手入れの効果が高まることが期待される。
近年は独自のR&D理念「DYNAMIC HARMONY」のInside/Outsideというアプローチのもと、肌内部のうるおいを保つために重要な要素として角層の状態に着目し、角層を健やかに保つための研究開発に取り組んでいる。研究成果の一部は、学術雑誌「IFSCC Magazine」「第49回 欧州研究皮膚科学会議」にて発表した。
資生堂は、50年以上にわたり角層研究に取り組み、肌の保湿状態は水分、天然保湿因子(NMF)、脂質のバランスが重要であること、角層の個々の成分の働きや状態を高めて角層を育成するという「コルネオ育成理論」を提唱し、美肌づくりをさらに進化させてきた。
肌の美しさ・健やかさを保つうえで、角層が担うバリア機能や保湿機能は重要だが、古い角層が剥がれて新しい角層に更新する「ターンオーバー」という現象でそれらの機能を維持している。これまでは、紫外線など環境刺激などで正常な角層形成が乱されると「不全角化」を伴った未熟な角層が生成されること、その因子が「Serpin b3」というタンパク質であることを研究で明らかにしてきた。
一方、加齢に伴い、角層剥離とターンオーバーは起こりにくくなり、角層が重層化することは知られていたが、その原因は十分には解明されていなかった。そこで、同社では研究を進め、角層剥離とターンオーバーを促進する酵素であるメソトリプシンが年齢とともに減少することを見出し、さらにその詳しいメカニズムに迫るべく、研究を続けた。
今回、年代別の皮膚組織を分析することで、加齢により角層中でYUKOPINというタンパク質が増加することを発見した。また、YUKOPINの発現を高めた皮膚培養モデルでは、角層が重層化することが明らかになり、YUKOPINは角層剥離を抑制する機能を有することを見出した。さらに生化学的実験から、角層剥離を促進し、その機能が加齢により低下することが確認されている酵素「メソトリプシン」の活性に対して、YUKOPINが生体内で抑制的に働く因子であることを初めて明らかにした。すなわち、年齢に伴う角層の重層化のメカニズムの一端は、メソトリプシンとYUKOPINのバランスの乱れによるものであることを発見した。
続いて、角層剥離を阻害する働きを持つことがわかったYUKOPINについて、その機能を抑える薬剤の探索を行った。その結果、マメ科植物の一種であるメリロート葉の抽出液やサトウダイコン由来成分といった成分に、YUKOPINの遺伝子発現量を抑制する効果を見出した。
角層重層化による肌への影響を調べるために、ヒトの皮膚にグリセリンやトラネキサム酸が含まれる化粧水を塗布し、角層中のグリセリン、トラネキサム酸の量をLCMS、DESI MSIで定量・可視化した。結果、角層が重層化している加齢した肌では、若い肌に比べて成分の浸透量が少ないことを確認することができた。
今後は、今回見出した角層研究の最新知見を、化粧品開発へ積極的に応用し、個々人の肌に合わせた新たなエイジングケアの提案へつなげていく。