資生堂、触感を司る細胞が香り成分で活性化することを発見

粧業日報 2022年10月31日号 4ページ

カンタンに言うと

  • 長年の皮膚感覚研究に基づく肌の五感に着目した新たなアプローチ
資生堂、触感を司る細胞が香り成分で活性化することを発見
 資生堂は、モナステリウム研究所との共同研究により、触覚を担うメルケル細胞に香り受容体が発現していることを発見し、サンダルウッド様の香りを持つ香り成分により香り受容体が活性化することを、ヒト皮膚培養系を用いた実験により証明した。また、メルケル細胞が加齢とともに減少することを発見した。

 同社では先行研究にて、メルケル細胞と接続して触覚を脳に伝える神経線維がハリやたるみに関連する真皮の構造維持にも関与していることを明らかにしており、このことからもメルケル細胞は肌の老化に影響していると考えられる。

 今回の発見により、直接肌に触れることなく、香りを用いて、肌を美しく健やかな状態に導く新たなアプローチの可能性が示された。

 なお、研究成果の一部は「国際化粧品技術者会連盟カンクン中間大会2021(IFSCC Conference 2021)」の口頭発表部門で発表し、最優秀賞を受賞した。

 同社はこれまでにも神経と肌の関係性について研究に取り組んできた。2019年には、真皮深層を含む肌奥深くの神経線維を3次元で可視化する独自技術(特許出願済み)を確立し、肌に存在する神経線維が加齢とともに減少すること、感覚神経細胞から放出される成分が肌の弾力に関わる線維芽細胞のコラーゲン産生を促すことを明らかにしている。

 また、「幸せホルモン」として知られるオキシトシンについては、一般的に知られる脳由来のものだけではなく、肌由来のオキシトシンが存在することを明らかにし、2021年には、肌由来オキシトシンが表皮の再生を促すことを発見している。

 今回、触覚を皮膚の最前線で感じ、脳に伝える重要な役割を果たしているといわれるメルケル細胞に着目し、いまだ未解明なヒト皮膚での様態や機能、メルケル細胞を活性化する方法について研究を進めた。

 具体的には、触覚を感じるメルケル細胞のヒト頬における存在状態や分布について、年齢による違いがあるのかどうか調査を行った。

 まず、表皮において5%以下しか存在しないと言われている数少ないメルケル細胞を明瞭かつ広範囲で観察するため、表皮を皮膚から剥離する技術と共焦点顕微鏡による3次元スキャン技術を組み合わせ、皮膚組織内でのメルケル細胞の分布を詳細に捉えることに成功した。これにより、メルケル細胞も神経線維と同様に加齢により顕著に減少することがわかった。

 次に、最先端の皮膚・毛髪科学研究機関であるモナステリウム研究所と共同研究を行い、これまで皮膚で触覚を感じる細胞として考えられてきたメルケル細胞に、香り受容体が発現していることを発見した。さらに、メルケル細胞で発現していた香り受容体に結合することが知られているサンダルウッド様の香り成分を含む溶液にヒト皮膚組織を浸して刺激すると、メルケル細胞が反応することをリアルタイムで示すことに成功した。

 同時に、サンダルウッド様の香り成分で刺激したメルケル細胞からは、NGF(Nerve growth factor:神経成長因子)が放出されることも発見した。NGFはその受容体を持つ表皮細胞や線維芽細胞、神経線維等を通して皮膚を健康に保つことが知られており、触覚を担うメルケル細胞が香りを受容し、さらにその活性化により肌を若々しく保つ可能性が新たに示された。

 メルケル細胞が発見されてから約150年、感染症の流行などにより人と人との触れ合いが減る昨今、触れること以外で触覚に関わる細胞や神経を活性化し美肌へアプローチすることは、新たなビューティーケアの可能性に光を当てることにつながることから、今回の新たな知見のさらなるブラッシュアップに努めていく。
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