資生堂は、聖路加国際病院との共同研究により、オンライン形式でのがん外見ケアアドバイスが、がん患者のQOL向上のための心理社会的支援として有用であることを確認した。
資生堂 医学博士・介護福祉士 池山和幸氏が、6月24日に開催された第8回日本がんサポーティブケア学会 学術集会(奈良県)にて、この研究成果を発表し、優秀演題賞を受賞した。同社は2008年から、がん治療の副作用に関する外見ケアを手がけ、がんになっても自分らしく生きることのできる社会を目指し、外見の変化に対する悩みを解決する活動をグローバルに展開している。
がん治療技術の進歩や早期発見により、就労しながら通院する人が増加する中、治療の副作用などによる外見の変化は、日常生活に影響を与えることが報告されている。2人に1人ががんに罹患するといわれる現代の日本社会において、アピアランス(外見)ケアを通じた、がん患者・経験者のQOL向上に向けた取り組みが注目されており、2023年3月に閣議決定された「第4期がん対策推進基本計画」においてもアピアランスケアの必要性が取り上げられている。
こうした中、同社では外見変化を伴う薬物治療中の乳がん患者(41名、30~60代)に対し、オンライン対面形式にて、美容技術者による約60分間のメークアップアドバイス(主に色素沈着対応、睫毛眉毛の脱毛対応)を実施した。
実施前とアドバイス後1週間患者自身で実践した後に、聖路加国際病院と共同でアンケートによるQOL評価を行った。その結果、外見変化に関するオンライン形式での相談は、「相談のしにくさ」へのハードルを下げることにつながり、外見ケアアドバイスは、ネガティブな感情を軽減させ、前向きな気持ちにするといった心理的な効果が期待できることがわかった。つまり、オンラインによる外見ケアアドバイスは、治療の副作用による外見変化に対する心理社会的支援として有効と考えられるという。
研究に参加した乳がん患者(41名)のスキンケア実施頻度は、「ほぼ毎日する」(85.4%)、「外出時や人と会う時」(9.8%)、「ほとんどしない」(4.9%)、メークアップ頻度は、「ほぼ毎日する」(23.9%)、「外出時や人と会う時」(63.4%)、「ほとんどしない」(7.3%)だった。研究参加者の半数以上が回答した治療に伴う外見変化は、「頭髪の脱毛」(82.9%)、「爪の変化」(70.7%)、「眉毛の脱毛」(63.4%)、「まつ毛の脱毛」(61.0%)、「顔の色素沈着」(58.5%)だった。
このような外見変化の悩みについて、研究参加者の61%は相談しにくいと感じており、43.9%は誰にも相談したことがなかった。一方、オンライン形式での相談に関しては、80.5%が「抵抗感がない」と感じていた。オンライン形式での外見ケアアドバイスのメリット(複数回答)として、「自宅から参加できて便利である」(94.7%)、「人目を気にせず参加できる」(76.3%)、「身体的負担が軽減できる」(57.9%)などが挙げられた。また、オンラインでのアドバイスを通じて、悩みの解決につながったことが確認された。
オンライン形式での外見ケアアドバイス後、1週間患者自身で実践した後の日常生活面での変化(複数回答)については、「前向きな気持ちになった」(65.7%)、「おしゃれに関心がでてきた」(44.7%)、「外出が楽しみになった」(26.9%)など、さまざまな気持ちや行動の変化があった。
オンライン形式での外見ケアアドバイス後の主観評価として、肌状態(皮膚の乾燥、くすみ、しみ)とメークアップ(肌の色のカバー、眉毛まつ毛の描き方)に関する満足度が有意に上昇し、皮膚特異的なQOL尺度の「感情」(皮膚の症状に対するネガティブな感情の程度)に関するスコアが有意に改善した。また、がん患者の自己効力感(感情統制の効力感)も有意に向上し、「混乱・当惑」「疲労・無気力」「緊張・不安」などネガティブな感情のスコアが有意に低下した。