花王、角層セラミドがアトピーの寛解指標となる可能性を発見

粧業日報 2023年8月9日号 2ページ

花王、角層セラミドがアトピーの寛解指標となる可能性を発見
 花王と大分大学医学部・波多野豊教授の研究グループは、アトピー性皮膚炎(AD)患者の皮膚角層のセラミドプロファイル、特に特定種類のセラミドの炭素鎖長が、ADの寛解や症状悪化を予測するための指標になる可能性があることを発見した。

 ADは、悪化と改善をくり返す、かゆみのある湿疹を主な症状とする慢性の炎症性皮膚疾患で、ステロイド外用剤などの薬物療法を中心として、スキンケア・生活指導を行い、「症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に到達し、それを維持すること」を目指して治療が行われている。

 しかし実際の診療では、治療によって一旦ADの症状が改善したとしても、皮膚症状や既存の指標から判断して薬物療法(ステロイド外用剤など)を徐々に減らすと、しばしば症状の悪化が見られることがある。そのため、ADの優れた寛解指標が求められている。

 過去の研究から、ADの角層(皮膚の最外層)では、皮膚バリア機能を担うセラミドのプロファイルが正常と異なることが知られている。そこで大分大学と花王は、セラミドプロファイルがADの寛解指標になり得るかどうかを試験により検証した。

 大分大学医学部附属病院皮膚科を受診し、ステロイド外用による薬物治療によってADの状態から寛解したと判断した39人の患者を対象に、8週間、保湿クリームを外用しつつステロイド外用を徐々に減らし、0週目(寛解時)と8週目にAD重症度スコアを評価した。0週目の時点で、血液と角層のサンプリングを実施し、8週目の時点で、AD重症度スコアが0週より同値以下であれば「悪化しなかった」、同値より大きければ「悪化した」として群分けした。

 その結果、一般的にADの重症度を判断する指標として用いられるTARC値や総IgE値、フィラグリン遺伝子変異の頻度については、悪化した群と悪化しなかった群とで有意な差はみられなかった。一方、悪化した群におけるセラミドNDS、NS、NH、AHの炭素鎖長は、悪化しなかった群の炭素鎖長に比べて有意に短鎖化しており、その中でも、NDS、NS、NHは群間の差が顕著だった。この結果から、セラミドプロファイルは、血清TARC値やIgE値よりもADの寛解あるいは症状悪化の鋭敏な予測因子になり得ることが示唆された。

 今回の研究により、AD寛解期におけるセラミドプロファイル、特にNDS、NS、NHの炭素鎖長は、ADの寛解や症状の悪化を予測するための鋭敏なバイオマーカーになる可能性が示された。

 皮膚バリアに対するセラミドプロファイルの臨床的意義は完全には解明されておらず、より詳細な調査が必要であるものの、今回の研究成果から、角層の健常化はADの真の寛解を意味し、セラミドプロファイルはその指標の1つとなり得る可能性が考えられる。
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