コーセーは、東京大学医科学研究所 老化再生生物学分野 難波大輔准教授との共同研究により、真皮線維芽細胞が老化方向に行くかどうかの細胞運命(推定分化経路)を調節する遺伝子の1つとしてEFEMP2が機能していることを明らかにした。
真皮線維芽細胞はコラーゲンやエラスチンなどの肌の構成タンパク質を産み出し、肌のハリや弾力の維持にも関わるため、この知見は肌の若返り研究における大きな一歩となる。研究成果の一部は、2023年9月に学術論文雑誌「Experimental Dermatology」にオンライン掲載された。
肌のシワやたるみといった加齢に伴う変化は多くの人が抱える肌悩みだ。同社ではその老化メカニズムを解明することで、顧客に効果的なアプローチを提供することを目指して研究を進めている。
近年では、加齢に伴って老化細胞が体内に蓄積すると、その周囲の細胞や組織をも老化させるという知見に研究者たちの注目が集っている。真皮に存在し、コラーゲンやエラスチンを産み出す線維芽細胞についても、老化細胞の蓄積によって周囲の細胞をも老化させ、その機能を低下させることは重要な研究課題となっている。この連鎖的な老化細胞の蓄積を防ぐためには、加齢によって老化細胞に変化するプロセスを分析し、老化細胞の発生を減らす手段を見つけることが有効だと考えられる。
一方、加齢による細胞変化を評価することは容易ではなく、異なる年齢の人の細胞を比較しても、遺伝的な違いはもとより、紫外線曝露の度合いや飲食習慣などの生活習慣による個人差が大きく、加齢による影響と切り分けることは難しい。
そこで同社では、そのような影響を最小限にできる同一人物から35年以上にわたって採取した真皮線維芽細胞の系列を用い、加齢による老化細胞の過剰蓄積に対する新知見の探索を試みた。
加齢により変化する線維芽細胞の細胞運命を推定
線維芽細胞は性質の異なる複数の細胞集団からなり、加齢によって各細胞集団の状態が変化すると考えられている。同社ではここに着目し、細胞の1つひとつの遺伝子発現を解析することが可能なシングルセルRNAシーケンスと呼ばれる技術を用い、同一人物の35年以上にわたる加齢変化が細胞集団にどのような変化を引き起こすかを解析した。
遺伝子発現のパターンから線維芽細胞を、「①増殖性の高い細胞」「②細胞外マトリクスの産生が多い細胞」「③老化細胞」「④老化状態にない細胞」の4つの集団に大別した。
加齢による線維芽細胞の主だった変化としては、老化細胞の増加、増殖性の高い細胞の減少、細胞外マトリクスの産生などの機能低下が示唆された。例えば、36歳と72歳のときの線維芽細胞を比較すると、老化細胞の割合は約4%から約10%に増加し、増殖性の高い細胞は約15%から約4%に減少という結果が得られた。
真皮線維芽細胞の老化運命を
切り換える遺伝子EFEMP2を特定
遺伝子発現のパターンから擬似時間軸解析という手法を用いることにより、始点として設定した増殖性の高い細胞集団が、加齢によりどのような細胞状態の変遷を辿るのかを解析した。
その結果、老化した細胞を終点(終点1)とする経路に加え、老化状態にない細胞を終点(終点2)とする2つの推定分化経路(細胞運命)の存在が推定された。そこで、終点2の老化状態にない細胞に特徴的であった遺伝子EFEMP2に着目し、その発現を抑制した際の細胞老化状態を評価した。その結果、EFEMP2の発現を抑制した線維芽細胞では、老化細胞の特徴を示す細胞の増加がみられ、EFEMP2が線維芽細胞の老化運命の切り換えに関わることが明らかとなった。なお、このEFEMP2の抑制による老化細胞の増加は、他の細胞供与者に由来する真皮線維芽細胞でも確認している。EFEMP2はフィブリン-4と呼ばれる、コラーゲンやエラスチンの形成に重要なタンパク質をつくる遺伝子だが、老化細胞との直接的な関わりは今回が初めての報告となる。
今回の研究により、加齢によって蓄積する老化細胞についての新たな知見を得ることができたことから、エイジングケアに有用な成分の開発などにつなげていく。