花王グループカスタマーマーケティングの中尾良雄社長は、「コロナの第5類への移行で人流が回復し、売上が好調に推移した。リニューアルによって商品の価値を高める戦略的値上げの効果で、単価も上昇した。就任1年目で、売上の面では評価をいただけるのではないか」と語る。
一方、流通との取り組みの進化を課題に掲げる。ワントゥワンマーケティングの実践によって、ロイヤリティの高い顧客の獲得に取り組む。
消費マインドや市場の見通し、流通への提案、取り組みについて、中尾社長にインタビューした。
――環境が厳しい中、消費の変化についてどのようにご覧になっていますか。
中尾 外部環境として、2023年の年明けの頃はまだウィズコロナでしたが、2月から3月にかけてマスクの着用が個人の判断に委ねられ、5月にはコロナ感染が5類に移行し、大きな転換がみられました。
我々にとってはコロナ禍から普通の生活に戻り、マインドの変化の面で効果がありました。さらに行動の変化で、人流が活発化することによって、我々は外出時に使う商品や、帰宅して清潔を保つ商品が多く、外出が増えるほどポジティブに働き、人のマインドと行動の変化によって、大きく変わったことを実感しています。
――業界で先駆けて、戦略的値上げを実施されました。流通の対応は、いかがですか。
中尾 日本のトイレタリー業界は遅れており、原材料の高騰を中々、価格に転嫁できませんでした。100%ではありませんが、流通さんの理解をいただいて、ある程度、価格改定を実現することができました。単純に原材料が上がった分をそのまま価格に反映させたものもありますが、大半は商品力、ブランド力を強化した改良、もしくは新商品によって単価をアップさせることができました。
まさに戦略的値上げは事業(メーカー)と一体となって実現できた部分があります。流通さんもそうですが、やはりお客さまからみた時に価値として認められるかどうかが、大切です。それを事業と一体となって、商品あるいはコミュニケーションによって、お客さまに認めていただけるような環境づくり、仕掛けづくりをしなければならないというところが大きなテーマでしたので、ここはうまくできたのではないかと思います。
値上げはハードルが高いという前提があります。比較的好調なもの、あるいはブランド力があるものはやりやすさもありますが、シェアの低いものや商品が変わらないものを値上げするのはハードルがあることを事業と認識を共有したうえで取り組めました。
戦略的値上げのインパクトは前期で340億円となり、一定の成果を出すことができたと考えています。
――カテゴリー別に格差は、あるのですか。
中尾 一番インパクトが大きかったのは衣料用洗剤です。主力商品の改良とともに単価アップができています。ブランド力もあって、それなりにシェアもとっていることから、比較的、値上げをしやすい土壌ができていました。
一方、パーソナルケアは、衣料用洗剤に比べるとハードルが高かったと認識しています。衛生材料の紙オムツやサニタリーは追いかける立場でトップブランドの動向などを踏まえて考える必要がありました。トップブランドの後を追う形になりましたが、結果的にはある程度、競争力を保ちながら、価格を上げることができました。