【週刊粧業2024年7月29日号5面にて掲載】
異業種から化粧品業界への参入が相次いでいる。製薬会社や食品会社はかなり以前から参入しており、もはや化粧品企業としても「古株」の域になっているが、近年参入しているのは、さらにもっと縁遠いビジネスと思える機械メーカーや基礎産業企業、大手商社などだ。
その中でも、日本を代表するような重厚長大企業が化粧品通販ビジネスに参入した。たまたま扱っていた原料に美容成分が認められたため、研究開発がスムーズに進んだということらしい。その後社長の肝いりで、女性のみのチームが結成され、商品開発、ブランディング、販売システムまで完成させたようだ。しかし化粧品を販売するノウハウが十分ではないとのことで、弊社に相談があった。
印象に残ったのは、担当の女性たちがとても生き生きと楽しそうに働いていたことだ。この会社は基礎産業で、ビジネスの中心は“男性”というのが当たり前。女性たちの業務と言えば男性のサポートが中心で、営業の第一線に立つことはなかったそうだ。ましてや、女性たちが化粧品ビジネスに携わるなど思いもよらなかったという。
それならば、女性たちの活躍を開発のストーリーにして、ブランディングできないかと考え、幹部の方を説得したところ、「そこに価値があるとは気が付かなかった」と驚いていた。「女性の活躍」に価値を感じていない企業はまだまだ多いことを改めて実感させられた。
10年ほど前は化粧品事業部が新設されても、女性が1人もおらず、いかにも男性の中間管理職が「新規事業を任されました」というような雰囲気で、必死に化粧品を理解しようとしている姿に初々しさを感じたものだった。
最近では、さすがに男性陣だけというチームはほとんどなくなった。美容面の情報やお客様の反応を予測し、企画立案するのは女性の担当者たちなので、ある程度の実務を任されていることが分かる。しかし、いわゆる管理職としての職責上の決裁権を握っているのは相変わらず男性が多いようだ。こんなところにも、まだまだ日本は男性社会なのだと感じさせられる。
その証拠として非営利団体の世界経済フォーラムが毎年、経済、教育、健康、政治の分野毎に各国の男女格差ぶりをデータで示す「ジェンダー・ギャップ指数」がある。毎年これが発表される時期になると、憂鬱になるのは私だけではないと思う。2024年日本は146カ国中118位で、過去最低だった昨年の125位からわずかに持ち直したものの、毎年下位グループから抜け出せず、先進国の中も、世界から取り残されていることが分かる。特に経済と政治の分野で女性の地位が低いとのことだ。
そこで提案したい。化粧品ビジネスこそ、10代から美容体験をして化粧品を長く使っている女性たちの力をもっと活用し、様々な判断を任せて、決裁権も与え、事業を展開するのはどうだろうか。そうすることで化粧品ビジネスの新たな未来が開けるかもしれない。
男性管理職は、得意分野のデータ管理やシステム構築に集中し、女性たちは知識の豊富な化粧品の企画やモノづくりで力を発揮すれば、双方が得意分野で勝負できることになる。
そうなれば、「ジェンダー・ギャップ指数」のランキングも少しは改善するかも知れない。化粧品ビジネスこそが、男女格差解消へのきっかけになればと思う。
鯉渕登志子
(株)フォー・レディー代表取締役
1982年㈱フォー・レディーを設立。大手メーカーの業態開発や通販MD企画のほか販促物制作などを手がける。これまでかかわった企業は50社余。女性ターゲットに徹する強いポリシーで、コンセプトづくりから具体的なクリエイティブ作業を行っている。特に通販ではブランディングをあわせて表現する手腕に定評がある。日本通信販売協会など講演実績多数。
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