制度化粧品メーカー、ヒノキ新薬(本社=東京)の阿部武彦社長は、日本再生への道標(みちしるべ)について、「今回の東日本大震災を契機に、日本人の思考を、これまでのディフェンス(防御)型から、高度経済成長時代のアグレッシブなオフェンス(攻撃)型に変えるべきで、そのことによって日本経済全体を活性化させねばならない」と語る。
計画停電は「停電のバラマキ」、優先順位をつけて取り組むべき
――東日本大震災による甚大な被害から日本全体を再生、復興させるための「道標」(道しるべ)について是非お考えをお聞かせ下さい。
阿部 このほど菅直人首相が記者会見で表明した「東日本大震災における復興3原則」なるものは非常に問題です。
「被災地住民の要望を尊重」「全国民の英知を結集」「未来志向の復興」のいずれもが、極めて情緒的、文学的であり、被災者に対して具体的にどういうことをやろうとしているのか何も触れていません。無責任極まりなく、そこにはリーダーシップのかけらもありません。
また菅首相が就任当初から提唱している「最小不幸社会をめざす」という考え方も問題です。「最小不幸社会とは何か」と問われても、答えられるのはそれを言い出したご本人しかいないのではないでしょうか。ジェレミ・ベンサムの言葉「最大多数の最大幸福」をもじったとしたら、いかにも後ろ向きで、国のリーダーとしてはお粗末過ぎます。
先日の計画停電にしてもそうですが、あれは“停電のバラマキ”以外の何ものでもありません。もっと優先順位をつけて取り組まなければ、肝心の産業用電力が不足し、結局は経済の衰退につながることになりかねません。
あの福島第1原発そのものがある福島県大熊町には、私どもヒノキ新薬のご販売店があります。幸いご家族やお客さまで地震による怪我などはありませんでしたが、原発から僅か4㎞の距離のため、退避勧告を受けて現在、同町全体として会津若松市に避難されています。
当社では義援金として、社員からも意見を聞き、健康のため禁煙している社員に毎月支給している「健康維持管理手当」の数カ月分に会社分を含めて総額1000万円を大熊町に直接寄付しました。町長からは電話で丁重にお礼の言葉をいただきました。
大熊町は、原発に勤める東京電力の職員とその家族で成り立っていた町です。その原発があのような状態となり、廃炉になることは確実です。
そこで私は町長に、「差し出がましいようですが、原発がだめになった後の町の復興をどうされるお考えですか。放射能汚染の問題をいかに処理するかどうかは別として、送電線などをはじめとして、いまある設備をできる限り活用して、原子力発電から火力発電に切り換えるプランを東京電力に提案してみたらいかがですか。その方が町の人々も希望が持てるし、安心するのではないでしょうか」と話しました。町長からは、「よいアイデアを頂きました」と言われました。
――非常に参考になるお話ですね。阿部社長はかねてより、超高度な医療機能を備えた「病院船」の建造を提唱されています。平時には健康管理医療船として、非常時には世界のどこにも派遣できる「病院船」として活用できるような特別船を、全党首による党首立法で建造しようという提案です。前述の火力発電所への転換のお話もそうですが、そうした発想はどのようにして出てくるのでしょうか。
阿部 私が大学を卒業して最初に就職したのは船舶会社でした。石炭船に乗って北海道で積み込んだ石炭を、三浦半島・久里浜の東京電力火力発電所に運んでいたのです。ですから火力発電所や船には本来馴染みがあるのです。
船は普通の人が考える以上に大量の物資を輸送できます。時速数十㎞で24時間走れますし、信号もなく、渋滞もありません(笑)。
日本経済が活力取り戻すためには教育制度の抜本的な見直しが必要
――日本経済がこれから再び活力を取り戻すにはどのような考え方が必要になってくるのでしょうか。
阿部 日本人は、高度経済成長時代はオフェンス型思考でした。「日進月歩」「カイゼン」は世界用語となりました。これが日本を世界第2位の経済大国にしたのです。
しかしその後、金融という日本人がどちらかと言えば苦手で投機的なディフェンス思考に陥り、結局バブルが崩壊して資産の多くを失ってしまいました。それがやや回復すると、今度は不動産投資、資産運用、海外への工場移転という考え方が出てきて現在に至っています。これもディフェンス思考です。
私は、今回の東日本大震災を契機として、日本人は再びオフェンス思考に戻るべきだと思います。「攻撃は最大の防御」と言うではありませんか。
そのためには、いまの小学校、中学校、高校の教育制度を抜本的に改める必要があります。「ゆとり教育」とは本来、余裕のある時間にオフェンス型の思考を育む場として活用することだったはずです。それがいまディフェンス型思考を再教育する場になってしまいました。
ライオンの子供でも、お互いに噛み合いながらえさを取るための訓練をしているのです。人間の子供でも小さいうちは喧嘩も必要なのです。
皮膚の体温調節作用にしても、幼いときから冷暖房完備で育てられれば、皮膚の体温調節作用が育たず、少しの暑さでも熱中症で倒れたりします。
日本経済でも同じことが言えます。ディフェンス思考ばかりでは、経済はどんどん衰退していくでしょう。自粛、自粛の繰り返しでは悪くなる一方です。いまこそ被災地の方々を一日でも早く通常の生活に戻すべきなのです。それこそが復興への近道です。
私事で恐縮ですが、先日、浅草に提灯を買いに行きました。私の家(世田谷区成城)の近くには、東宝スタジオがあり、仙川の桜並木はそれこそ見事なものです。自宅の庭にも桜があり、毎年知人を招待して桜をライトで照らして楽しんでもらっていました。
ところが今回の震災のため、近所にも一応配慮して提灯にロウソクを灯して、夜桜見物と洒落込むことにしようと、浅草に出掛けたのです。
折しも「三社祭」が中止となり、困り果てていた提灯屋にはえらく喜ばれました(笑)。果たして提灯の灯に照らされた夜桜は、江戸情緒に溢れ最高でした。
この記事は週刊粧業 掲載
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