加賀百万石の城下町として知られる金沢市に、化粧品容器の企画・販売で業績を拡大している成長企業がある。
1998年10月立ち上げのケイズ(2011年4月に有限会社ケイズプラントから株式会社ケイズへ社名変更)は、設立から10期目の2008年3月期に売上高を10億円台へ乗せると、以降も前期までに連続増収を続けている。
同社の角嶋一幸社長に経歴を聞くと、かつては意外や海に生きた水産業の従事者で、運命の流転に任せて第一次産業から化粧品業界へ身を投じた異色の経歴に目を引かれる。通り一遍でないアイデア性と品質が問われる容器の世界で、顧客企業の支持を集める角嶋社長に要因と経緯を聞いた。
特徴づけと社員のモチベーションが成長期の推進力に
――社歴が若い貴社の成長要因を教えて下さい。
角嶋 実際のところ、まだ業績が伸びているという感覚を持っていない。
業界には「老舗」といわれるメーカーさんや問屋さんが数々あるなかで、おこがましくて競争相手と見る会社が全く無いことがその理由だと思う。珍しい経営者かもしれないが、どこの会社がどんな業績をあげているか見たことがない。
もし当社に偶然性ではない成長の理由があるとしたら、後発の新参が業界へ出て行くうえで特徴を持っていなければならないという点には神経を使った。その特徴は海外製品を扱うことや、不良品を出さないための厳重な検査体制の構築だった。この部分では先を見据えてしっかりと投資を重ねた。
――あるいは「人」という経営資源にも要因が。
角嶋 当社は数十人ほどの所帯だが、大勢には上手に営業ができる者がいる一方で、なかにはそうではない社員もいる。個々の能力差はあって当たり前だと思っている。
ただ、全従業員が共通して持つべき企業理念として、まず「他人を思いやれよ」という考えを大事にしてきた。これは私自身の基本でもある。
社歴が浅い当社は若い営業メンバーが多く、時にお客様から叱られる場合がある。叱られた場面でも、「お客様を思って自分と会社を大切にする気持ち」を大事にしようと心掛けている。
品質や価格と同等に当社が評価されている部分は、こうした理念で業務を行う社員かもしれない。
社名変更と統合経て若い同社は第2幕へ
――設立から13年、慣れ親しんだ社名を変更した理由は何でしょう。
角嶋 旧社名はカドシマの頭文字「K」に「プラント」をつけ“角嶋たちの工場”という意味合を込めた。
また、当社には関連会社として化粧品の受託製造を行うワムインターナショナル(同、以下=ワム)があり、2011年7月を目途に両社の統合を計画している。今回の社名変更は、関連2社の統合に向けた布石またはファーストステップだと考えている。「ケイズ」はつまり「角嶋たち」でもあるうえ、社名って短い方がいいでしょう(笑)
ケイズは容器を作る問屋で、ワムは中身を作る役割を持った別法人として稼働している。両者が統合して1つになれば、お客様へ1本の電話や1枚の注文書で依頼が完結する仕組みを提供することができる。お客様にとって利便性が向上したら、別の知恵を絞ってもらう時間と労力が生まれるかもしれない。
一方で、当社としては(容器展開と中身づくりの一本化で)新しい道を研鑽していかなければならない。そうした新しい道が最近になって見えてきた。見えたから、2社を1つにする経営判断を下した。
――ただ、法人格の異なる両社の融合には時間や工夫が必要では。
角嶋 私は「融和」という大きなテーマを見つめている。これは、人と人が個性を持ち寄って1つのエネルギーを作り出すという意味だと位置づけている。融和は混ざり合って1つの安定したものになる。
これに対し、「融合」というのはAとBが混ざり合って爆発・分裂することだと私は理解する。
統合は「融和」をめざして取り組む。それぞれが個性を殺すことなく、手を結んだことで生まれるエネルギーを追い求めていきたい。ただ、文化が異なる両社の融和には2~3年間は必要かと思っている。
――もとは漁師さんという経歴が異色です。
角嶋 船を降りたのは24歳の時で、血気盛んな当時はさまざまな職業に関心がある一方で陸と寸断された生活では情報量が乏しかった。
ある時、一群の友人グループがこの頃に流行った訪問販売に熱を上げていた。セミナーに参加して聞いたところでは、成功者は100~200万円の報酬が得られるという。友人らが一緒だという心強さや報酬の魅力に駆られて飛び込んだが2年ほどで撤退した。
ほどなく、訪販の仲間らがエステサロン向けの脱毛ローションの営業職に就き、私も縁を活かして雇用機会を得た。この時が化粧品との出会いだった。飛び込みや紹介で販売店を回り、化粧品を売り歩く業務だった。
ところが、その後は勤務した会社の倒産で何度かの失職を経験したほか、美容問屋に転じて東京へ進出してからも平穏な時間は少なかった。
ただ、振り返ると当時のつまずきが化粧品容器との出会いを生んでくれた。また、多くの方々の支援や協力が無かったら現在の当社や私は存在していないと信じている。
この記事はC&T 2011年6月15日号 76ページ 掲載
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