花王、バイオマスから化学原料製造を可能にする発酵生産技術を開発

粧業日報 2023年4月7日号 4ページ

カンタンに言うと

  • 微生物を用いてグルコースから芳香族化合物を高効率で生産することに成功
花王、バイオマスから化学原料製造を可能にする発酵生産技術を開発
 花王は、芳香族化合物である没食子酸(ぼっしょくしさん)、4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸を、トウモロコシやサトウキビ由来のグルコースから微生物を用いて製造する発酵生産技術を開発した。

 この技術は、バイオマスから製品のもととなる化合物(化学原料)の製造を可能にするもので、将来にわたって地球にやさしい製品を安定的に供給することに貢献すると考えられる。今回の成果は、日本農芸化学会2023年度大会(2023年3月14~17日、広島県)にて発表した。

 現在、化学原料の多くは、石油からの化学合成や植物からの抽出によって製造されているが、発酵生産は新しい製造プロセスとして注目されている。微生物が体内で物質を作り出す性質を利用して特定の成分を作らせる発酵生産は、従来の製造プロセスよりもCO₂排出量が一般的に少ないことから、環境負荷の軽減が可能な製造方法と考えられている。しかし、化学原料の1つである芳香族化合物は、産業的な利用価値が高いにも関わらず、微生物内での代謝経路のステップ数が多く複雑なため、発酵生産での商業的な製造の例は限られている。

 そこで今回は、微生物による洗剤用酵素生産研究の知見を活かし、芳香族化合物である没食子酸と、4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸(4,3-AHBA)をコリネ型細菌を用いて発酵生産する技術を検討した。

 没食子酸とは、ウルシ科植物にできる虫こぶ(五倍子)から抽出される植物ポリフェノールの1つで、パソコンやスマートフォンといった電子機器の半導体や、ボイラー用防サビ剤の原料などとして、幅広く利用されている。工業的に重要な原料であるにも関わらず、樹木由来であるため収量が天候に左右されやすく、生産地も限られている。

 同社はグルコースから没食子酸を発酵生産する技術に注目し、実用化を見据えた生産技術の開発を目指した。今回、コリネ型細菌に複数の没食子酸生産経路を導入し、かつ副産物生産の代謝経路を抑制することに成功。コリネ型細菌を用いて、グルコースから没食子酸を高効率に発酵生産する技術を確立した。開発したコリネ型細菌は、グルコースから没食子酸への変換能力が元のコリネ型細菌よりも1.8倍程度増加することから、製造コストの低減が可能だ。

 この技術を応用すれば、安定的かつ安価に没食子酸を供給できる新しいサプライチェーンの構築が可能であると考えられ、今後は実用化に向けてのさらなる技術開発を進めていく。

 続いて、脱炭素社会実現に向け、再生可能な植物性材料を用いたバイオマス由来プラスチックの普及が進んでいる一方で、耐熱性を発現しうるバイオマス由来の原料は限られていることから、バイオマス由来プラスチックの機能性向上に向け、プラスチック素材の中でも耐熱性と強度に優れるポリベンズオキサゾールに着目し、その原料である4,3-AHBAをグルコースから生産することを試みた。

 これまでグルコースから4,3-AHBAを生産する方法は確立されていなかったが、類似成分がコリネ型細菌の中で生合成されていることを利用し、独自に開発した酵素をコリネ型細菌に導入することで生合成経路の構築に成功。グルコースから4,3-AHBAを生産する新しいプロセスを確立した。

 この技術は、バイオマス由来プラスチックの製造に利用できる原料の選択肢を拡大するもので、バイオマス由来プラスチックの普及に資すると考えられる。今後はバイオマス由来プラスチック素材の新原料として、利用検討を進めていく。
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