第59回 笑話ではなく昭和

【C&T2024年7月号6面にて掲載】


はじめに

 広告を通じて、化粧品の様々な効果や当時理想とされた顔のイメージが伝わってくる。世間で流行る歌は時代の風潮を受けて変わっていき、世間の趨勢も歌の流行によって影響を受けることを「歌は世につれ」という。化粧品もまさにそのとおりだと思う。化粧の意味や仕方は、その長い歴史の中で、文化、経済、政治などから様々な影響を受けながら変化した。化粧品とはそういうものである。

 日本は戦後になってから、口紅をはじめとするポイントメイクの広告が増加する。流行色を打ち出した広告や海外製を強調するキャッチコピーが特徴的で、「マダムジュジュ」のような年齢化粧品“25歳以下の方はお使いになってはいけません!”も現れた(図1)

 広告は今のようなインターネット通販の時代から、さらにこれからも変わっていくと思う。振り返れば笑い話のようになるかもしれないことを「笑話」という。そこで今回は、化粧品のヒット曲や広告宣伝費から、私がいた昭和の歴史を振り返ってみたい。


ヒット曲

 私がこの業界に入った頃、化粧品会社がキャンペーンCMソングでヒットの時代を創っていた。例えば1978年(昭和53年)秋の資生堂アイメイクキャンペーンソング「君のひとみは10000ボルト」は、始めから資生堂のCMソングを前提として作られた曲であり、タイトルも資生堂が決めたものである(図2)

 資生堂本社で行われた数名の打ち合わせの席で、担当者が「テーマをお伝えします」と切り出し、競合他社があるため他言無用としながら「君のひとみは10000ボルト」とのみ書かれた紙を茶封筒から出して見せ、歌手でアリスの堀内孝雄が記憶したことを確認するとすぐに封筒を戻されてしまった。

 その時に堀内には資生堂からそれ以上の説明はなかったという。当時はそれだけ社外秘で各社競争が激しかった。カネボウがその頃にサーカスの「Mr.サマータイム」でヒットを飛ばしていたし、翌年にまた、カネボウは桑名正博の「セクシャルバイオレットNo.1」でCMソングを出している。

 膵臓の疾患でのどが腫れ、声も出ない状態で長期入院していた故・谷村新司にタイトルの件を伝えると、困惑しながらも♪鳶(とび)色のひとみに誘惑のかげり~君のひとみは10000ボルト地上に降りた最後の天使♪とインパクトのある歌詞を書き上げた。

 実際に「鳶色のひとみ」なんていうフレーズがとても私には出てこない。作曲した堀内も「資生堂のキャンペーンならやれば絶対に売れる」ことから、どうしてもやりたかった述懐している。そうして化粧品のキャンペーンCMから名曲が生まれた。そして、2022年に創立150周年のTVCMにも使われることになる。



広告宣伝費

 ここ数年の広告宣伝費は、コロナ禍による外出自粛やインバウンドの減少が市場の落ち込みに大きく影響したが、2000億円前後である。1987年(昭和62年)の花王は広告宣伝費のランキングトップで、この年以外でもトップの常連だった(図3)

 400億円を超える、売上高広告比率8.57%となっている。2位が松下電器、3、4、7位が自動車メーカーという構成だが、着目すべきは売上高広告比率で9位のライオン、10位の資生堂は7~8%だ。自動車メーカーは売上規模がまったく異なるので比率は1%程度に急減する。

 主婦という言葉は時代錯誤になっているが、当時は、TVCMのメインターゲットはその主婦層であり、広告効果との連動が顕著なハウスホールド分野、つまり衣料用、台所用、住宅用の各洗剤でトップシェアの花王は、湯水のように広告を使っていた。ライオンも9位だ。化粧品も同様に「マス広告で訴求する!」という時代で資生堂も10位にランクインしている。

 しかし数年前からトップ10は様変わりし、花王はトップ10には入っていない。ただ資生堂が9位で頑張っている。

 2000年3月期の花王の決算報告で、「化粧品(ソフィーナ)の売上高は708億円、営業利益は22億円」と発表している。「化粧品も花王」というブランドイメージを何が何でも市場に確立するんだ、という覚悟を感じるし後年のカネボウ買収になったと思う。

 「洗剤の歴史を変えた!」と言われる花王アタックの発売は1987年で、日経ヒット商品番付の横綱を獲得し、以後30年にわたってトップシェアを維持している(図4)。ソフィーナCMの販売促進コストもアタックによるところが多いという。


おわりに

 話は変わるが、教育(学習環境)、研究環境、研究の質、国際性・国際的展望、産業の5つの領域における指標で評価された世界大学ランキング(2024年版)で、東京大学は29位だった。

 1位のオックスフォード大学から欧米の大学が続き、アジアでは12位の精華大学(中国)、北京大学、シンガポール国立大学が上位だった。

 当然、私が関係する琉球大学も東京農業大学もなく、日本の年間名目GDP はドイツに抜かれ世界4位に後退している。これが今の現実で世界2位は昔ばなしである。

 そして今は大きな転換点と言われる。昭和の業界広告を少しだけ振り返ってみたがみんなが戦っていたように感じた。

 「CHANGE(チェンジ)」のGはCとTの組み合わせである。男性が育休なんてと思うかもしれないT(ためらい)を除くと、GがCに変わり「CHANCE(チャンス)」になる。

 「辛い」かもしれないが字に横棒一本通して「幸い」に変わるまで前へ進んでいきたいと思う。

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島田邦男

琉球ボーテ(株) 代表取締役

1955年東京生まれ 工学博士 大分大学大学院工学研究科卒業、化粧品会社勤務を経て日油㈱を2014年退職。 日本化粧品技術者会東京支部常議員、日本油化学会関東支部副支部長、日中化粧品国際交流協会専門家委員、東京農業大学客員教授。 日油筑波研究所でグループリーダーとしてリン脂質ポリマーの評価研究を実施。 日本油化学会エディター賞受賞。経済産業省 特許出願技術動向調査委員を歴任。 主な著書に 「Nanotechnology for Producing Novel Cosmetics in Japan」((株)シーエムシー出版) 「Formulas,Ingredients and Production of Cosmetics」(Springer-Veriag GmbH) 他多数

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