化粧品・トイレタリー容器メーカーのツバキスタイル(藤村太郎社長)は、10年前から環境対策容器を提案してきたが、このほど、化粧品・トイレタリー容器の循環型リサイクルシステム「化粧品版 ボトル to ボトル」の取り組みを開始した。
新事業を展開するにあたっては、新会社「BEAUTYCLE(ビューティクル)」を設立。持続可能な社会の実現に向け、業界に循環型リサイクルシステムを定着させることを目指す。
化粧品版のボトル to ボトル
トレーサビリティーを確保
ツバキスタイルは、まだ世間の環境意識も低かったころから、飲料用ボトル100%リサイクル樹脂を使用した「再生PET容器」、サトウキビ原料を素材とした「バイオマスPE・PET」など、環境対策容器の提案を行ってきた。
「環境対策樹脂の使用量は業界最大であると自負している」(藤村社長)
業界に先駆けてSDGsに取り組んできた同社はこのほど、第2段階として、使用済みの化粧品・トイレタリーボトルを新品のボトルに生まれ変わらせる循環型リサイクルシステム「化粧品版 ボトル to ボトル」の取り組みを開始した。
使用した化粧品容器を回収し、同社で分別・粉砕・洗浄を行った上で樹脂化・容器として再成形する。
循環型リサイクルに取り組んでいる事業者は存在するものの、回収されたプラスチックが何に生まれ変わっているのかが不明瞭なケースが少なくない。
今回の新事業は、回収した容器のトレーサビリティーを確保している点が最大の特徴で、回収した化粧品容器を同じ化粧品の容器として再生させることで、化粧品版のボトル to ボトルを実現する。
「画期的な取り組みである一方、使用済みの容器を消費者からきちんと回収できるかが課題として挙げられるだろう。訪問販売・美容室・エステサロン・ネイルサロンなど、対面販売を行う販路が回収しやすいのではないか。そのほか、ECやネットワークビジネスなどは、会員の情報を把握でき、理念も共有しやすいことから、この事業と相性がよいのではないかと考えている」(藤村社長)
社会の変化や企業の取り組みに影響を受けて、一般消費者のエコ意識も高まっている。欧米では、企業のSDGsへの取り組みを知った人たちが情報をシェアして購買行動が起きているという。
価格や機能だけではなく、環境への取り組みや企業姿勢が問われる時代となり、環境に優しくあることは、消費者にとっても大切な価値観となった。
化粧品メーカーは環境配慮についての適切な知識を持ち、サステナビリティへの配慮を進んで行っていく必要がある。
新会社を設立し新事業を運営
佐賀県にリサイクル工場を建設
新事業「ボトル to ボトル」は、ツバキスタイルが出資して設立する新会社「BEAUTYCLE(ビューティクル)」が主体となり運営する。
代表取締役社長は藤村太郎氏が務め、容器大手のグラセルも資本参加している。BEAUTYCLEという名前は、「Beauty」と「Cycle」を組み合わせた造語で、「美の循環」という意味があるほか、「Beauty+Recycle(美しいリサイクル)」という意味も込められている。
現在、佐賀・神埼市に、敷地面積4300平方メートル、延床面積4000平方メートル、2階建てのリサイクル工場を建設中で、2023年1月からの生産開始を予定している。延床面積1650平方メートルの倉庫も併設する。
工場には、ポリエチレン・PPラインとPETラインの2ラインを設け、どちらも月に25トンの処理が行えるようにする。さらに、FDA(米国食品医薬品局)認証を受けた機械のほか、食品で使用可能な容器であれば、化粧品でも安心して使用することができることから、食品適応の設備を導入する。
「新会社ではひとまず、ツバキスタイルとグラセルの供給した容器を優先的に回収しリサイクルする予定だ」(藤村社長)
また、今年4月には、ツバキスタイルと、その製造会社である椿化工の全株式を、アイ・シグマ・キャピタル運営ファンドに売却している。藤村社長は、「後継者がいないという問題があり、2年ほど前から今後について考えていた。株式譲渡で新事業により注力できる環境を整えることができた」と語る。
持続可能な社会の実現には
循環型の仕組みが必要
6月4日には、プラスチックごみを減らすとともに、回収やリサイクルを強化することを目的とした「プラスチック資源循環促進法」が参院本会議で可決、成立した。
来年4月に施行され、10月からはリサイクル業者の申請が開始する見通しとなっており、新会社でも申請を行う予定だ。
メーカーに対し、リサイクルすることを前提とした設計でプラスチック製品を生産することを求め、対策を取らない企業に対しては罰則を与えることができると定められている。
また、「脱炭素社会」が世界的なトレンドとなっており、日本も2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目標としている。
「学校でもSDGsに関する教育が行われるようになり、『プラスチック=悪い』という認識はさらに強まっていくだろう。今こそ、環境への取り組みを強化していかなければならない」(藤村社長)
プラスチックは多くのゴミを生み出し、焼却の際に排出される二酸化炭素は地球温暖化の原因になるなど、多くの環境問題を引き起こしてきた一方で、安価なだけでなく、優れた特性を多く持っており、軽く丈夫で、内容物の影響を受けにくいほか、長期保存や備蓄にも適している。
「そうした全ての長所を他の素材だけで代替することはできないことから、プラスチックの需要が世界的になくなることはないだろう。再生PET容器やバイオマスPE・PETの取り組みも、環境に対する一定の効果はあるものの、捨てる時にはマイクロプラスチックが発生してしまう。環境に悪影響を与えず、今後もプラスチックを使い続けるためには、循環型の仕組みが必要だ。今回の事業は未来への投資であり、社会課題の解決に向けた取り組みそのものである。持続可能な社会を実現するため、化粧品・トイレタリー業界に、サステナブルな循環型システムを定着させていきたい」(藤村社長)