優れた薬効と高い安全性で広く知られるヒノキチオールを全品に配合したスキンケアブランド「ヒノキ肌粧品」を展開するヒノキ新薬では昨年、SNSでのコラボレーション企画をはじめ、ホームページのコンテンツ拡充や公式LINEの始動など、デジタル領域において新たな取り組みに挑戦した。
ヒノキチオールの発見と同じ1936年に生まれ、1976年の社長就任以来、これまで45年以上にわたって経営の第一線で化粧品業界の変遷を見つめてきた阿部武彦社長に、「アフターコロナを見据えた攻めのOMO戦略」をテーマに、忌憚のない意見を伺った。
――化粧品業界で進む「デジタル化」について、率直な意見や感想をお聞かせください。
阿部 今や言葉遊びのように、世の中は何でもデジタル化という流れになっているが、その音頭を取っている国のはたまた役人は、どれだけデジタル化が国民にとってメリットがあるのかを明示しているのだろうか。
国がデジタル化を推進する理由として、国家経費がどれほど削減できるのかといった点が本来の目的であるはずだ。
こうした具体的な説明もなく、自分たちが楽になるというだけで莫大な税金を投入してデジタル化を進めようとしている役人自身は、果たしてこういった本来の目的を理解しているのか甚だ疑問だ。
そして、役人が言っていることを受け売りで大企業が右へ倣えでデジタル化を進めている現状もいかがなものだろうか。
私は、デジタル化を進めるべき業種とそうでない業種があると捉えており、例えば金融機関がデジタル化の推進で膨大な数の取引を効率的に管理していくのは重要なことだろう。
一方で、これまで人を介して対面で販売していた化粧品業界は特に、デジタル化がしにくい業種だ。そこに対して無理をしてデジタル化を押し進めることになれば、結果的にマニュアル化に近い接客やカウンセリングになってしまうものと危惧している。
最近では、デジタルでの肌測定結果をもとに商品を推奨するサービスもあるが、そこには深い会話もなく単純にセンサーで測定された結果だけで商品を薦められ、果たしてそれで消費者が納得して購入するのだろうか。
化粧品の販売はその時々によって旬の魚を仕入れ、産地などの能書きを聞きながら握ってもらう寿司屋の商売に通じるものがある。
コロナが今後収束し、人と対面することが問題なくなった時、それでもデジタルを軸に化粧品を販売していくべきだろうか。
私はいかにデジタル化が進んでも、これまでと同様にお店での化粧品(肌粧品)販売はやはり対面を軸に据えるべきだと考えている。
――化粧品業界でデジタル化を進めていくべき点と、貴社の現在進めている取り組みについてお聞かせください。
阿部 昨今の風潮として、メーカーは顧客を全て自分たちで管理することを理想としているが、顧客に直接商品を販売する立場になれば問屋や販売店が不要になる。これはメーカーのエゴイズムであり、今のデジタル化の大半は販売店や問屋を無視しているため、そこに対して抵抗感がある。
化粧品だけではなく、あらゆる市場はこれまで小売店が中心となって成長を続けてきたと私は思っている。だからこそ、ご販売店を蔑ろにするような風潮には憤慨している。
もし、デジタルを活用するのであればメーカーではなく小売店が顧客管理を行い、小売店のデータに対してメーカーがサジェスチョンをする、あるいは必要に応じてサンプルを提供するといったような、マーケティング面での活用は大いに賛成だ。
また、ある商品を購入したお客様が何カ月後に再購入されるといった予測ができるよう、ご販売店が顧客台帳をデジタル化することも進めていくべきだ。
――貴社では現在、デジタル活用でどのような取り組みを行っていますか。
阿部 繰り返しになるが、デジタル化を進めるうえでどういったメリットがあるのか、その目的をしっかりと説明できるかが重要だ。
当社が進めるデジタル化の取り組みは、あくまでも店頭でお客様が購入していただくきっかけを提供するものであり、ご販売店の販促活動をサポートするための一環で、お客様に直接販売することを目的としているものではない。
昨年の取り組みを改めて振り返ってみると、コロナ禍の影響により前年から引き続き、デジタル領域において情報発信の強化が必要となる1年だった。
近年注力してきたSNSでは、ツイッターにて長野県の長門牧場さんとのコラボレーション企画を、インスタグラムでは多種のサンプル企画をそれぞれ実施し、より多くの方々にヒノキ肌粧品を認知いただくきっかけになった。
そして、昨年はホームページ上で「ご販売店インタビュー」「肌粧品とわたし」「肌粧品アンバサダー」などのインタビューを掲載し、ご販売店やお客様のリアルな「声」を可視化することにより、企業価値を高める取り組みにも努めた。
さらに昨年は公式LINEが始動し、今後はさらにお客様に向けて可視化された情報の提供を進めていきたい。