花王は、家庭で使用されるタオルを調査し、半年間の使用を通してその平織り部に菌のかたまり(バイオフィルム)が形成されることを発見した。そのバイオフィルムを構成する菌種は、手指等の肌に存在する菌とは異なり、植物の根付近にいるような菌を含む独特の菌叢を形成していることも確認した。
これらの菌は洗たくでも容易に落ちず、タオルのくすみなどの原因になっていることが推察される。なお、研究内容の一部は、第16回日本ゲノム微生物学会にて発表しており、新しい衣料洗浄技術の開発に応用される。
同社は、身のまわりの繊維製品におけるニオイやくすみなどを防ぐため、洗たくを通してそこに付着する菌を適切に制御する研究を続け、このほど、繊維製品の中でも素材や織り方、編み方が異なると、住み着く菌の種類や付き方、生じる課題が変わるとの仮説に基づき、身のまわりの繊維製品の中でも、手や顔を洗う、うがいをする、お風呂に入るといった衛生行動に使われるタオルに着目した。
フワフワして分厚い独特の構造をしているタオルは、日々の生活の中で、タオルのニオイやくすみを感じることは少なくないが、付着する菌についてはほとんど研究されていなかった。そこで、その表面に菌がどのように付着し、どのような課題を引き起こすかについて調べた。今回の調査では、24家庭に新品のタオルを配って普段通り使用と洗たくを繰り返してもらい、その変化を2カ月おきに調べた。その結果、タオルの色は、ひと目で明らかなほどくすんだ状態となった。
菌は何らかの表面に付着してバイオフィルムとなることがあり、その過程で菌は多糖やタンパク質、DNAといった物質を菌体外に出すことが知られている。そこで、これらのタオルには菌が付着してバイオフィルムを形成し、くすみが生じたと仮定してタオルに含まれるバイオフィルムの量を調べた。その結果、バイオフィルムの構成成分である菌そのものの数に加えて、多糖やタンパク質、DNAがいずれも経時で増えていく様子が捉えられた。
続いて、タオルに菌がどのように付着しバイオフィルムを形成したのか、回収したタオルの糸を構成する繊維を顕微鏡で詳細に観察したところ、意外にも菌は最も表面にあってすぐに菌がたどり着きそうなパイル部には見られなかったが、パイルの奥をかき分けて平織り部をほぐしていくと、繊維の間にたくさんの菌がぎっしりと詰まっている様子を捉えることができた。
その菌の数は、2カ月~6カ月とタオルを長く使うほど、増えていくように見えた。つまり、菌は平織り部のような糸が動きにくく水分が残りやすいところを好んだものと推測される。
さらに、タオルに形成されたバイオフィルムにどのような菌がいたかを調べた。タオル上の菌に含まれるDNAを抽出し、そのDNAを使って菌種とその構成割合等がわかる手法で解析したところ、生乾き臭がする衣類でよく見られるモラクセラ属細菌等が高頻度で見られた。
タオルでは皮膚に多いスタフィロコッカス属細菌等はほとんど見られず、バイオフィルム量が多いタオルではブレバンディモナス属細菌やオーレイモナス属細菌等といった過去に報告例が少ない菌が高頻度で見つかった。
そこで、バイオフィルム中の菌叢におけるオーレイモナス属細菌の割合とバイオフィルム構成成分である多糖量との関係を整理したところ、オーレイモナス存在比が高いほど多糖量が多いことが確認され、こうした菌がバイオフィルムを構成していることがわかった。また、オーレイモナス属細菌の割合が高いほど、新品タオルと比較した白さの変化値が高くなる傾向も確認できた。
これらの結果より、タオル上には人の肌から移った菌だけでなく、糸が動き難にくく水分が残りやすいといった特有の構造・環境で生き抜くのに適した菌が選ばれた可能性が示唆された。
これにより、洗たく機で一緒に洗う繊維製品の中でも、その構造や使い方によって付着する菌や課題が多様であることが見えてきた。今後も、さまざまな繊維製品に対するバイオフィルムの形成挙動を調べ、その課題を解決する洗浄技術の開発を進めていく。