阪本薬品工業、保湿剤・グリセリンに関する最新知見を紹介

C&T 2022年6月15日号 46ページ

阪本薬品工業、保湿剤・グリセリンに関する最新知見を紹介
 国内唯一のグリセリン専業メーカーとして知られる阪本薬品工業では、高い安全性と保湿効果を示し、古くから保湿剤として化粧品や外用剤に配合されているグリセリンの皮膚角層に対する作用メカニズムを解明することで、保湿効果の高い化粧品やより効果を示す保湿剤の開発・提供を目指している。

 同社ではその一環として、名古屋産業科学研究所との共同研究を進めており、世界最高性能の大型放射光施設「SPring-8」を用いた皮膚角層のX線構造解析によって、グリセリンが角層中の角層細胞に入り水分を蓄え、かつグリセリン及びジグリセリンのいずれもが細胞間脂質の炭化水素鎖の直方晶充填構造にも作用して水分量を制御することで、保湿能を高めていることを発見した。

 20ミクロン程度の厚さの角層は角層細胞と細胞間脂質から構成され、さらに角層細胞内にはソフトケラチンによる構造があり、細胞間脂質は長・短周期ラメラ構造、炭化水素鎖の六方晶・直方晶充填構造からなっている。

 これらの多様な構造をもつ角層にグリセリンを作用した時の格子定数0.1%程度の僅かな構造変化の動的振舞を解析するには、SPring-8の高輝度放射光によるX線構造解析が重要な手法となる。

 共同研究では、実際の皮膚角層に対する実験結果の解析からグリセリンが角層中の角層細胞に入ること、かつ細胞間脂質の炭化水素鎖の直方晶充填構造に作用することを明らかにした。

 さらに、前者は水分を蓄え、後者は水分量を制御する役割を果たすため、グリセリンは両者に作用し保湿能を高めることに関わっていることも明らかにした。

 また、ジグリセリンは後者に強く作用することが明らかになり、グリセリン/ジグリセリン混合系が保湿能をさらに高めることがわかり、この結果は従来のモデル系を用いて提案されていた作用メカニズムとは大きく異なることを示した。

 「このようなグリセリン/ジグリセリンの作用メカニズムについて化粧品技術者国際会議や日本油化学会で発表したところ大きな注目を集め、高機能な保湿剤として普及に成功した。グリセリン/ジグリセリン混合系は科学的根拠に基づいた保湿効果の高い化粧品に応用され、化粧水やクリームなどの外用剤、洗浄剤をはじめ幅広い用途で国内外の化粧品メーカーに採用されて利用が拡大している」(同社)

 阪本薬品工業では、グリセリンに関する最新の知見として、昨年9月に開催された日本油化学会第60回年会にて「角層保湿におけるグリセリンの優位性の実証研究」の発表を行った。

 保湿を目的とする化粧品や医薬品には、グリセリンや天然保湿因子(NMF)のような保湿剤が配合されている。これらの保湿剤は、角層中の水分と結合することで効果を発現することが知られているため、その分子構造によって保湿効果が異なると予測される。

 そこで、同研究では保湿剤としてグリセリン、乳酸ナトリウム、ピロリドンカルボン酸ナトリウム(PCA-Na)、尿素を用い、各保湿剤の10wt%水溶液を皮膚に塗布し、保湿効果を調査した。

 塗布後3分から120分における角層水分量の経時変化をCorneometer CM825(Courage+Khazaka製)で追跡し、塗布前からの増加量(△角層水分量)より保湿効果を評価した。

 その結果、いずれの保湿剤を用いた場合にも、角層水分量は時間経過とともに低下した後、一定の値に収束するという推移を示した。その中で、NMFはいずれも30分後に角層水分量が一定の値となったのに対し、グリセリンは60分後に収束したことから、グリセリンはNMFに比べ水分量の低下を緩やかにすることを確認した。

 また、グリセリンは全ての時間でNMFよりも有意に角層水分量が高い値を示し、グリセリンはNMFと比較して保湿効果に優れることが明らかとなった(図1)



 さらに、同研究では尿素とグリセリンを併用することで相乗的な保湿性を示すことも確認され(図2)、尿素とグリセリンを併せて配合することで保湿性の高い化粧料を設計できる可能性が示唆された。

 「化粧品の中にも尿素とグリセリンを併用したものは数多くあるが、科学的根拠に基づいて相乗的な保湿性を明らかにしたのは恐らく初めてだろう。併用によるメリットは保湿性のみならず、ベタつきのあるグリセリンと軋み感のある尿素のネガティブな官能が組み合わさることで、保湿性を維持したまま心地よい官能の化粧品開発にも寄与できる。今後の研究では、電気化学的な測定(in vitro)から、実際にヒトの肌(in vivo)での測定によって確実性を追求し、どの部分に保湿剤がとどまることで角層水分量が向上するかというような、より具体的な作用メカニズムの解明に取り組んでいきたい」(同社)
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