ライオンと筑大、帰宅直後のウイルスの住居内感染リスクを可視化

粧業日報 2023年3月17日号 2ページ

カンタンに言うと

  • 今後は社会全体の感染予防に向けた衛生行動の提案も視野に
  • 手洗いタイミングを早めると感染リスクは1/100~1/1000 に低減
ライオンと筑大、帰宅直後のウイルスの住居内感染リスクを可視化
 ライオンと筑波大学は、実態調査に基づく生活者の行動モデリングと、各種材質基板とモデル皮膚を使い、家財・携帯品・手指などに付着したウイルス量を推定するエージェントベースシミュレーションモデルを開発した。

 このシミュレーションモデルを用いて、生活者が外出先から自宅に戻ってきた際に生じる、住居内のウイルスの拡散状態を分析した。その結果、帰宅前に一定量のウイルスが手に付着したと仮定した場合、帰宅直後から手洗いまでの多くの行動で、室内の様々な箇所に手指のウイルスが付着し、これに次の帰宅者が二次接触して、室内に拡散させることがわかった。

 玄関内での手指消毒と早めの手洗いなど、帰宅直後の衛生行動のタイミングを工夫することや、同居者に感染者がいた場合には、感染者が療養する部屋を出る際に手指消毒を行うことで、他の同居者の二次的なウイルス接触リスクが低減するという結果も得られた。

 日常生活におけるウイルスの付着箇所や広がり方がわかれば、より効果的な感染予防対策ができ、予防の負担軽減にもつながる。今後はこのシミュレーションモデルをさらに発展させ、家庭内だけでなく、公共場面における病原体接触リスクを解析し、社会全体の感染予防に向けた衛生行動の提案を目指す。

 病原体の感染経路には、「飛沫・空気感染」や「接触感染」等があり、飛沫・空気感染はCOVID-19を契機に、可視化技術を含む様々な研究により、病原体を含んだ飛沫・エアロゾルが、ヒトからどのように放出され、他の人々の身体に吸い込まれるかが明らかになり、そのリスクの理解が大きく進んだ。一方で、接触感染は、汚染された手指や物品から、病原体がどのように家財や所持品、手指に広がり、他の人々の口や鼻等の粘膜に到達するか、十分に明らかになっておらず、リスクは不透明なままとなっている。今後も様々な感染症の脅威が予想される中、接触感染リスクを理解し、適切な対策をとることは感染予防において重要といえるが、実際には目に見えないウイルスを直接検出し、その実態を明らかにすることは困難だ。

 そこで、ライオンと筑大の研究グループは、仮想空間で自律的に動くエージェント(個人や集合体)がもたらす全体への影響を評価するエージェントベースシミュレーションモデルを用い、住居内での接触行動に伴うウイルスの室内拡散の状況と、手洗い等の衛生行動がウイルスの拡散・再接触を抑制する効果について評価した。

手洗いタイミングを早めると
感染リスクは1/100~1/1000 に低減

 予備調査から、生活者は、帰宅直後から手を洗うまでの間に、住居内の様々な物品に触れていることが明らかになった。そこで、一般成人約1100人を対象に、帰宅直後から30分間に訪れた部屋とそこで触った物品の順序、手洗い・手指消毒のタイミング等をアンケート調査し、住居内接触行動を数値化した。

 また、接触動作時の手指と物品表面との間のウイルス移動量を定量化するため、新型コロナウイルスと同じエンベロープ型ウイルスであるインフルエンザウイルスを用い、プラスチックや金属、布等の材質基板とモデル皮膚との間のウイルスの移動量を測定した。これにより、材質や形状、接触回数等、行動調査から想定される様々な接触条件に対応するウイルスの移動量パラメータを取得した。

 次に、住居内接触行動について、部屋の移動やその部屋で起こる接触回数、接触した物品から新たな物品に触る行動を確率値に変換し、帰宅後30分間の生活者の動線と接触行動を再現するシミュレーションモデルを構築した。このモデルにウイルスの移動量パラメータを組み込むことで、エージェントが訪れた部屋で、物品・手指に付着するウイルス量が算出可能になるとともに、住居内のウイルスの分布がその間取り上で定量的に可視化できるようになった。

 このモデルを用いて、帰宅前に手指に付着していたウイルスが、帰宅後に住居内でどのように拡散するかを分析した。

 その結果、帰宅後に手洗い(ハンドソープ使用)をしていたとしても、その前に生じた接触行動により、すでに多くの物品にウイルスが付着しており、その室内分布は30分間手を洗わなかった場合とほぼ同じだった。

 一方、帰宅後の手洗いのタイミングを早めた(14回接触以内)場合、トイレや浴室、寝室等のウイルス付着量は、30分間手を洗わなかった場合のおよそ1/100~1/1000 にまで減少したが、玄関やキッチン等、帰宅後すぐに入りやすい部屋のウイルス量は、手洗いのタイミングに関わらずほとんど変化しなかった。

 一方、帰宅直後に玄関でアルコールによる手指消毒を行うと、これらの部屋のウイルス量もおよそ1/100~1/1000 にまで減少し、ウイルスへの再接触リスク低減効果が、定量的に示された。

 さらに、住居内に感染者がいた場合の同居者の接触感染リスクを分析した。帰宅した同居者が感染者の世話等で寝室に入り、飛沫等で汚染された物品に接触することで、手に大量のウイルスが付着し、他の部屋への移動と物品への接触を通じて、このウイルスが住居内に拡散し、他の同居者にも二次的な接触感染リスクが及ぶことがわかった。

 このリスク低減対策として、手洗いや手指消毒の効果を踏まえて分析したところ、感染者の寝室を出る際、感染者本人と同居者がともに手指消毒を行うことで、二次的な感染のリスクと手指の接触による住居内の汚染範囲を極小化できることが定量的に示された。

 今後は、住居内での子どもの行動や、小学校や飲食店等、多数の人が活動する空間に研究対象を広げるとともに、飛沫動態データの導入や他の感染症ウイルス・微生物を対象としたリスク研究を進めていく。
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