アルビオンは、1956年の創業以来、『高級化粧品の第一人者として、本物志向に徹し、美しい感動と信頼の輪を世界に広げる』という企業理念の実現に向け、新しい化粧品の楽しさや感動を伝えることに努めてきた。
入社以来、様々な改革を断行し、売上規模を約3倍に高めてきた小林章一社長に「世界一の高級化粧品メーカー」の実現に向け大切なことはどのようなことか、様々な観点から話を伺った。
化粧品業界はより一層、
独自性、個性の争いへ
――これまでの仕事人生を振り返っていただき、改めて思うことをお話いただけますか。
小林 企業経営も人生も、苦しい時、どうしようもない時があります。そういった危機の時こそ、取り繕ったり帳尻合わせをせずに、中身(本質)を追い求めていくことが重要です。無理に取り繕おうとすると、後の痛手がより大きくなります。
高級品とはやせ我慢だと思うんです。やせ我慢すべき時にはやせ我慢すべきだと思います。それをしないと、後でしっぺ返しを受けるというのが私の結論です。
先ほど中身が大事と申し上げましたが、そのような考えに至ったエピソードが1つあります。
かつて私は堤清二という漢に憧れてセゾングループに入社しました。その当時はバブルの絶頂期で業績も絶好調で飛ぶ鳥を落とす勢いでした。新入社員も2500人を超え入社式のメイン会場に入りきらないほどでした。拡大に次ぐ拡大を続けインターコンチネンタルホテルズグループを約2600億円で買収したのを頂点に、最終的には解体という道を辿りました。
決して拡大がいけないことだとは思いませんし、拡大したくなる経営者の気持ちもすごくよくわかります。しかし、拡大を追い求める片側で売上の中身にこだわっていくことはより重要だと感じています。今後も、地に足のついた、実力相応の、お客様のご満足の上に成り立つ経営を実践・追求してまいります。
もちろん、割引をしたり、販路を広げれば、短期間で今の2倍、3倍の売上をつくることは可能です。でも我々はそれをやらない訳です。それが我慢ということの意味です。これからも売上の中身には徹底してこだわってまいります。
アルビオンにとっての売上の中身とは、お客様お一人おひとりのお喜び、ご満足の上に成り立つビジネスの追求であり、それこそがアルビオンの生き様ということになります。これは日本であっても、海外であっても変わりません。そういう意味でやせ我慢の時期はあって当たり前であり、特に高級品ビジネスにおいてはやせ我慢の時期はあっていいと思っています。
2015年から2019年にかけては、インバウンドで大変好調な実績を生むことができ、5年間で累計600億円(上代ベース)を売り上げました。その後、コロナ禍で苦しみましたが、時間をかけて中身にこだわりながら立て直しを進めております。
コロナ禍に入って時代は大きく変わりましたが、何も変わらないことが1つあります。それはお客様の“綺麗になりたい”“綺麗な肌を手に入れたい”というお気持ちです。そうしたニーズにしっかりお応えしていくためにも、アルビオンはこれからもより一層ものづくりと接客に注力してまいります。コロナ禍の3年間は、オンラインを使いこなしながら何とかレベルの維持を図ってきましたが、今年に入ってようやく通常通りの活動に戻ってきました。
今後もきっと想定外の連続で、想定外しか起こらないのだろうと思いますが、そういうことが起こることを前提に仕事に向き合ってまいります。
またコロナ禍によって、「常識がリセットされた」とも感じています。求められる次元が変わってきており、現状維持では衰退してしまうという危機感を抱いています。
ものづくりも接客も、今までとは常識が変わってきていることを前提に対応していくことが必要だと強く感じています。
昨今では、美容に興味を持つ男性が圧倒的に増えました。5年前には想像もしていませんでした。美容クリニックに通う約3割は男性と言われており、このことからも常識が変わってきていることを実感しています。
そういう時代だからこそ、今までにない商品をつくることにより一層挑戦してまいります。これまでも当社は、今までにない商品・カテゴリーをつくることに取り組んできた歴史があります。
1978年には業界初となる水乾両用のサマーファンデーション「デューク マリーンブロッサ」を発売しましたし、“ホワイトニング”というカテゴリーをつくったのも“美容オイル”というワードを定着させたのもアルビオンです。今までにない商品をつくることは、アルビオンらしさのひとつです。今後も新しい商品・新しいカテゴリーの創造に積極的に取り組んでまいります。
新しい商品をつくるためには、手間暇や時間を惜しみません。お客様に本当に肌でご実感していただけるのなら、たとえどんなに高い原料でも使っていく覚悟でものづくりに取り組んでまいります。それが最終的にお客様のお喜びに結びつくと思っています。
化粧品業界は、今後より一層、独自性、個性の争いになるでしょう。新製品を出したから売上がつくれるという時代は終わりを告げ、売上が守れない時代に突入しました。これからは独自性や個性が発揮できなければ、お客様はやって来ませんし、ただ新製品を出しても売上を伸ばすことは難しいと考えています。
誕生から約50年、今なお進化し続ける「薬用スキンコンディショナー エッセンシャル」
白濁の化粧水にはものづくりへのこだわりが息づく
生産体制・技術開発の両面で
「素材・原料のこだわり」が進展
――過去に「創意工夫によって戦い、強い礎をつくり、次世代につなげていくことが重要」というお話をいただきました。ここ5年ほどのスパンで、創意工夫によって前進した取り組みや、基盤が整った点などについてお聞かせください。
小林 ものづくりに関しては、「素材・原料へのこだわり」「抽出法の開発」「自社工場におけるノウハウの蓄積」の3点が前進しました。
中でも「素材・原料のこだわり」が最も進んでおり、自社で農地を有しているほか、日本全国あるいは世界各国に委託農家を持ち、独自の素材づくりに協力していただいています。また、植物バイオテクノロジー技術を活用し、培養により効率的に原料をつくることにも取り組んでいます。
また、アルビオン独自の『亜臨界ジメチルエーテル抽出』という抽出方法を中心に、様々な抽出技術による独自原料の開発を推進しています。今後も植物が本来持つ力を最大限引き出せるよう取り組んでまいります。
自社工場におけるノウハウの蓄積も着実に進んでいます。現在、アルビオンブランドの商品においては8割以上が自社工場でつくられていますが、今後も自社の生産設備で対応できない商品以外は自社工場で試行錯誤しながらつくっていくことで、ノウハウを蓄積してまいります。
オープンイノベーションについては、大阪大学や東京農業大学との連携に取り組んでいますが、提携先の数についてはやや物足りなさを感じています。もっと提携先を増やせると考えており、この点は今後の課題として取り組んでまいります。
――接客力強化に向けた取り組みについてご説明ください。
小林 接客については、ものづくりとともに最も注力してきたところであり、そんなに疲弊しているという印象は持っていませんが、今のお客様に合わせた接客を追求していくことは必要なことだと思っています。
ただ、どんなに時代が変わろうとも、接客のポイントは『お客様最優先』であること。創業以来大切にしてきた、常にお客様を想い行動する“気働きの接客”は不変です。このアルビオンならではの接客によって、「またお越しいただく」「1年でも長く会員様でいていただく」ということがとても重要だと思っています。
「またお越しいただく」というテーマは不変ですが、そのやり方は時代とともに変化していきますので、教育内容については時代の変化に合わせて柔軟に変更していくつもりです。
白神研究所 抽出研究棟
変えてそれで終わりではなく
どう進化させていくかが重要
――5年前のインタビューでは、印象に残っている3つの政策を挙げていただき、「取引店の絞り込み」が最上位にきていました。その後、「フラルネの導入」がありましたが、この政策はどのあたりに位置していますか。
小林 「フラルネの導入」は、発売から25年の愛用者が非常に多い看板シリーズ「エクサージュ」をなくして新たに立ち上げたということですので、「取引店の絞り込み」を抜いて最上位にランクすると思います。
今の「フラルネ」の姿が全てとは考えていません。商品構成は変わっていきますし、2年目、3年目とさらに進化を図ってまいります。より良いものにしていくためには、絶えず変化していくことが重要であり、開発担当にはどんどん変えなさいと言っています。「エクサージュ」を「フラルネ」に変えてそれで終わりではなく、一度変えた後にそれをどうより良い形に進化させていくかが大事です。
発売初日に新規導入ブランドの1日売上として世界新記録(当時)を樹立した「アナ スイ」は、導入当初から「変えないといつか衰退する」と言い続けてきましたが、前例のないレベルでヒットしてしまったことで、世界観を壊せずに現在に至っています。
売れていると中々変えられないですが、売れなくなってから変えても売れませんから、売れている時に変えていくことが重要です。売れているものを変えるからこそ努力もするし、売れる可能性もより高まっていきます。
お客様のニーズが絶えず変化している訳ですから、ブランドやシリーズもより良いものを求めて変化し続ける必要があります。「フラルネ」もそうした考えから生まれたシリーズであり、「エクサージュ」と比べて商品自体のレベルはかなり進化しています。
――「フラルネ」の導入経緯を改めて教えていただけますか。
小林 「エクサージュ」が誕生した1997年と現在では人々の意識や価値観が大きく変化しています。多様性や個性を尊重する今の時代に「肌の個性に寄り添う」ことをコンセプトとし、1品1品がより際立つ魅力を携え「フラルネ」は誕生しました。
ターゲットとする20代・30代のお客様を見たとき、1997年と現在では置かれている環境も趣向も全く異なります。これまでの延長線上で「エクサージュ」を改良することでは今のお客様のニーズを満たすことはできないと考え、全く新しいコンセプトを持つシリーズとして導入することを決断しました。
導入当初はアンバサダーも起用せず、静かなスタートとなりましたが、より良いものに変えていくという意味ではむしろ静かなスタートで良かったと考えています。
スキンケアシリーズ「フラルネ」
左:秋冬におすすめの“ライブリーライン”
右:春夏におすすめの“ブライトライン”
米国進出の足掛かりとして
旗艦店をロサンゼルスに開設
――創業来のポリシー「世界一の高級化粧品メーカーになる」についてどのように具現化していくべきとお考えですか。国内における戦い、海外(アジア・欧米)における戦い方について、それぞれご説明ください。
小林 一番大切なことは、売上はもちろん売場環境や接客も含めて、国内で「圧倒的な存在」になることです。国内で圧倒的な存在になれば、インバウンド需要も獲得できますし、海外における認知度アップにもつながります。具体的な将来目標として、年商で2億店様が100店、1億店様が200店、6000万円店様が300店を目指し、実現したいと思っています。
これをクリアできれば、1店様1店様のお客様づくりと売上の最大化が図れます。お店の差別化に貢献し、かつ売上でも貢献するというのがアルビオンの基本的な考え方です。こうした強固な基盤が構築できれば、広告にも負けない強い体質になると思いますし、お店様との信頼関係や絆もより深くなっていくと思います。
10年後、20年後も化粧品専門店が繁栄し続けるためには、売上を上げ、先行投資を行い、お店の魅力を高め続ける専門店様の不断の努力が重要です。そういう前向きな取り組みには協力は惜しみませんし、1店でも多くのお店様が売上・利益を上げて発展して欲しいと願っています。
アジアに関しては、ある程度今までの延長線上で戦っていけると考えています。中国や台湾、シンガポール、マレーシア、インドネシア、タイなどでは、十分に戦っていけるのではないかと思っています。
欧米に関しては、趣向も習慣も感性も気候も違いますので、専用商品をつくって戦っていかないと厳しいとみています。
日本で売れているものをただ持っていくだけで売れるほど簡単な市場ではないことはよく理解していますので、まずは欧米エリアに住むアジア系の住民の方々の取り込みを進めつつ、次のステップとして欧米の人々に合った専用商品の開発に取り組んでまいります。
その一環として、今年6月にライフスタイル提案を行うコンセプト型フラッグシップショップをロサンゼルスのベニスエリアにオープンしました。
アメリカでは、高級化粧品を販売する百貨店業態が総じて活気を失っていますので、インターナショナルブランドの旗艦店や個性あふれるセレクトショップ、アートギャラリー、レストランなどが立ち並ぶ、時代の最先端を行くエリアに直営店を立ち上げました。
本格的に売上が拡大し、ブランドが浸透していくのは専用商品を投入した時ですので、そこまでに至るのはもう少し先になると思います。まずはアジア系住民の方々にアプローチし、アルビオンブランドの浸透を図ってまいります。
欧州は米国よりさらに進出のハードルが高く、戦略を練っている段階です。進出する場合には路面店と考えていますが、スイーツ店以外は流行っていない印象です。成功確率の高い方法を見つけ出し、欧州の攻略を図ってまいります。
ALBION GARDEN Abbot Kinney
新規事業への種まきを行いつつ
新チャネル、新ブランドに挑戦
――最後に、100周年に向けて取り組んでいきたいこと、将来的に実現していきたい夢について一言お願いします。
小林 今から約30年後の100周年にこうあって欲しいということが1つあります。それはアルビオンらしさが受け継がれていることであり、経営理念である『高級化粧品の第一人者として、本物志向に徹し、美しい感動と信頼の輪を世界に広げる』ことを、アルビオンらしく実践し続けていて欲しいと思います。
“アルビオンは高級化粧品メーカーとして生き様が違うよね”“やはりアルビオンだけは別格だよね”と言われる存在になっていて欲しいですし、育てる文化を30年後も持ち続けていて欲しいです。
私は今年で還暦を迎えますので、あと一仕事、何か新たに手掛けたいと思っています。ドラッグストアやスーパー、コンビニといった業態は全く考えていませんが、新しいチャネルの開発に挑戦していきたいですし、新ブランドの開発も検討したいと思っています。
また、人を笑顔にするというコンセプトのもと、新規事業を立ち上げるなど将来に向けて種まきをしていくことも重要と考えていますので、こちらについても取り組みを進めていきたいと考えています。