花王、蚊の観察に特化した仮想空間を理研とともに構築

粧業日報 2024年6月14日号 1ページ

カンタンに言うと

  • シリコーンオイルが脚についた際のニオイを覚えて回避行動へ
花王、蚊の観察に特化した仮想空間を理研とともに構築

 花王は、理化学研究所 脳神経科学研究センター 知覚神経回路機構研究チームと共同で、正確に制御した様々な感覚刺激に対する蚊の行動を詳細に把握できる仮想空間を構築した。

 同社はこれまでの研究で、低粘度シリコーンオイルがついている表面には、蚊がとどまらないことを報告している。今回開発した装置を使った実験の結果、脚へのシリコーンオイル付着は、蚊の追跡能力低下を引き起こした。さらに、蚊が体験とニオイを関連づけて記憶する連合学習を行うことを確認し、嫌な体験をした際に記憶したニオイに対して回避行動を取る可能性を見出した。

 実際、蚊が自分の意志で自由に飛んでいると感じるような蚊に特化した仮想空間を構築すると、蚊は右に曲がりたいとき、左の羽音が大きくなる。マイクで収音し、羽音の変化を感知すると、LEDパネルに表示される映像を左に移動させるため、蚊は自分が右に曲がったと錯覚する。今回の成果は、2024年3月にNature Researchの電子ジャーナルScientific Reportsに掲載された。

 デング熱やマラリアなどの蚊が媒介する感染症によって年間約100万人が命を落としており、蚊に刺されることから身を守ることが必要とされている。花王は、化粧品などに使用される低粘度シリコーンオイルを肌に塗ると、蚊が肌にとどまらずにすぐに飛び立つ逃避行動をとることを見出し、その性質を応用した独自の蚊よけ商品を開発している。

 開発の過程で、蚊がシリコーンオイルを塗った肌から飛び立った後、脚についたシリコーンオイルを拭うような動作をしていることに気がついた。そこで、シリコーンオイルに対する蚊の反応をより正確に理解できる仮想空間を構築し、実験を行った。

 共同研究チームは、蚊が自分の意志で自由に飛んでいると感じるような蚊に特化した仮想空間を構築した。この装置では、飛んでいる蚊の羽音をマイクで集めて計測することで、蚊の飛びたい方向を分析し、それに合わせて周囲の映像やニオイなどの感覚刺激を変化させることができる。これにより、0.005秒ごとに感覚刺激を変化させられるため、蚊の微細な行動変化を捉え、様々な感覚刺激がどのように受容されているかを推測することが可能になる。

    低粘度シリコーンオイルが脚につくと、動くものを追いかける能力が低下

 1つ目の実験では、仮想空間内のLEDパネルに蚊の行動に応じて動く黒い物体(棒)を表示させると、蚊は棒を追いかけ、常に棒が目の前にくるように飛ぶが、脚にシリコーンオイルを付着させた蚊は、棒をうまく追跡することができなくなった。このことから、シリコーンオイルの脚への付着は、蚊の追跡能力の低下を引き起こすことがわかった。

 蚊は叩かれそうになったときの物理刺激と、その際に嗅いだニオイを連合させて記憶し、そのニオイを回避することが報告されている。そこで、シリコーンオイルが脚についた時のニオイも記憶し、行動が変わるのではないかと推測した。

 2つ目の実験では、シリコーンオイルとグリセロールを蚊の脚に付着させて、仮想空間でその行動を比較した。その際、両方とも無臭であるため蚊が嫌うニオイとして知られているシトロネラオイルを混ぜた。付着後、チューブからシトロネラのニオイを提示して飛行行動を観察した結果、シリコーンオイルが脚についた場合は、シトロネラのニオイが出ている方向を避けて飛ぶ時間が増え、シトロネラをより強く回避する行動が見られた。一方で、グリセロールの場合は飛行行動に変化は見られなかった。

 蚊は、シリコーンオイルが脚に付着するという体験と、その際に嗅いだシトロネラを関連づけて記憶している(連合学習)と考えられる。この結果から、蚊が嫌な体験をした際に記憶したニオイに対して回避行動を取る可能性を見出した。

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