環境に配慮した印刷システムにこだわる精英堂印刷では1999年より水なし印刷を導入し、その普及に努めてきた。水なし印刷によるパッケージづくりを手掛ける印刷会社はほとんどなく、同社の差別化戦略の大きな柱となっている。今回はパッケージづくりの後編として、印刷から納品までの流れを、渡部茂取締役生産技術部部長に解説してもらった。
⑥印刷
環境にやさしい水なし印刷はパッケージの偽造防止にも貢献
水を使う従来の印刷では刷版工程で特別管理産業廃棄物扱いとなる廃液が発生、印刷時にもVOC(揮発性有機化合物)を含む湿し水を使用する。一方、水なし印刷では現像にアルカリ液ではなく水道水を使用するため、産業廃棄物が発生しない。印刷時にもシリコンゴム層がインクをはじくため、湿し水も不要という環境的メリットがある。
「水あり印刷ではpH7を5~5.5まで下げるため酸性イオンの助剤を入れる。有毒性で環境負荷は大きい」
品質面でも、水なし印刷がもたらすベネフィットは大きい。
「水なし印刷ではアミ点のにじみがなく、データをより忠実に再現できるため、水あり印刷よりシャープな仕上がりになる。このメリットをご説明すると、納得して水なし印刷を選ぶお客さまも多い」
優れた再現力は偽造防止対策にも一役買う。最小0.3㎜程のマイクロ文字を安定的に印刷できるからだ。マイクロ文字は拡大鏡を使わないと読み取ることができず、存在自体に気づきにくい。これによりマイクロ文字まで偽造することはほぼ不可能であり、偽造品が出ても偽物との判別が明確にできる。シールでもマイクロ文字を鮮明に表現できる。龍がデザインされたシールラベルコンテストのラベルにもマイクロ文字が使用され「優秀賞」を受賞している。
「水なし印刷は標準的な印刷機械で対応できる。版材やインキが割高になってしまうが、企業努力でカバーし、水あり印刷と同じ料金でお受けしている。特に指定のないお客さまの場合は、環境に配慮するという弊社の企業方針に基づき、水なしで印刷する。弊社は『Japan Color標準印刷認定』を取得しているので、水なし印刷でのカラーマネージメントシステム(CMS)も確立させた」
水なし印刷を行っている印刷会社は全国に150社ほどあり、一般社団法人日本水なし印刷協会が普及に向けた啓蒙活動を続けている。まだ印刷会社全体の1.5%程度だが、同社では今後も環境に配慮した水なし印刷の重要性を訴え、より多くの製品への展開に努めていく。
⑦加工
SMOLできらめき感演出上質なしっとり加工も好評
印刷後、様々な加工を施してパッケージに付加価値をもたせる。
化粧品パッケージにおすすめしたい加工の1つが、エンボスニスを応用して作成する「SMOL」(Super Movement of Light)である。
「この加工はオフセット印刷の範囲で対応するため、低価格でできるのが魅力だ。図柄に光の陰影や視覚効果を加えてきらめき感を表現するもので、薄紙にもできる。柄見本は多数用意しているが、オリジナルパターンも作成可能だ。シンプルでプレステージなイメージを訴求する化粧品のパッケージにふさわしい加工と言える」
パール紙や銀紙の効果を出す「パールコーテット」「シルバーコーテット」は、同社が得意とする技法だ。同社オリジナルの技法なのでコストパフォーマンスに優れているだけでなく、光沢表現の幅が広くSMOLや箔押しなどの後加工もできる。パッケージの美粧性を高めるには効果的な加工だ。さらに、再生可能な紙にも加工できるため、環境に配慮した印刷物を作ることができる。
「ソフトタッチ」という、しっとりした仕上がりをもたらす加工を、採用する企業も増えている。まるで桃のようなしっとりなめらかな手触りをもたらし、商品の高級感を演出する。現在、低コスト化に向けた研究を進めており、6月の国際化粧品開発展までに製品化する計画だ。
化粧品のパッケージによく使われるのが「箔押し」である。おなじみの金銀色以外にも様々なメタリックカラーを選ぶことができる。
「箔押しと浮き出し(エンボス加工)の技術を合わせると、さらなる立体感が出る。手法や技術の組み合わせで、お客様のイメージに合わせた仕上がりを表現できる」
⑧枚葉・シール検査
機械で色ブレ、汚れを検査ヒトの目視による検査作業も
印刷や加工が終了すると検査作業に入る。
検査はヒトによる目視と検査機を使ったものがあるが、厚紙などの特殊な紙以外は機械で検品を行う。
「最初にマスター(オリジナル)データをカメラが読み込み、それに対して印刷物に色ブレや汚れがないか徹底的に検査する。目安として、1時間に3000~4000枚をチェックできる。検査機は印刷物のサイズなどに応じて全部で4台あり、検査履歴が残るので前工程にフィードバックし、設備の維持管理にも活用している。お客さまの依頼に応じ、さらに目視検査をすることもある」
⑨型抜き・ブランクス検査
紙質や加工に応じ加減調節長年培ったノウハウを駆使
検査が通ったら、次は型抜き作業だ。
抜き型は木製で内部に刃がはめ込まれ、周囲にクッション材としてゴムが貼り付けてある。
「型を抜く際に裂け目が沈むと紙粉が発生し、パッケージに付着してしまうので角度や硬さを調節する。ゴムも紙の質に対応して様々な材質を用意している。完全に抜く場合と、寸止めにして筋(折り目)をつける場合がある。筋の太さや種類(ミシン目など)、深さも調節できる。この調節具合を間違えると折り目が割れてしまう。調節には長年の経験で培ったノウハウが必要であり、まだアナログ的な技術もここには存在する。パッケージにどのような加工を施したかによって、割れにくさも変わってくるからだ。例えばエンボスニスを施したパッケージは硬いので割れやすいため、独自の細工をしている」
抜き終えた製品はブランクス検査で枚葉・シール検査と同じように検査する。
⑩貼り・納品
エコロジーな糊を使用納品用段ボールにもこだわる
型抜きが終わると、貼り作業に入る。貼りには環境にやさしいエマルジョン系の糊を使用する。紙箱の形になるように、罫線を折ったり、糊を塗布する。最後にベルトを通すことで、糊を定着(圧着)させる。キズや糊貼り不良を発生させない微妙な調整が必要となる難易度の高い工程である。
このように様々な工程を経てパッケージは完成に至る。
「納品のための梱包作業は最後の締めとなる重要な仕事。通常のダンボールでは、パッケージを収めた時にサイズが合わないと隙間ができるが、隙間を埋めるために緩衝材を入れるとお客さまのところでゴミが発生してしまう。そのため、納品用の段ボール箱はパッケージのサイズに合わせて手配している。当社では、お客さまの案件ごとに細部に至るまで内容を確認し、社内用に製品要求事項確認書を作成している。リピートオーダーをいただいた時や、弊社の担当が変わった時に間違いのないようにするためだ。書面で残せば、社内で共通認識を持ち、誰が担当しても対応できるようになる。同時に、お客さまからの声も積極的に取り入れ、出来るだけ進行がスムーズにいくよう心がけている」
納品された段ボールを開けた瞬間から、その会社の仕事ぶりがわかるというもの。同社ではこれからも顧客に満足してもらえるよう技術開発に注力し、ノウハウを駆使して、パッケージづくりで化粧品業界の期待に応えていく。
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この記事は週刊粧業 掲載
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