資生堂は、唇の角層タンパク質と菌叢を網羅的に解析し、唇の性質を詳細に明らかにした。
これまでは、唇の表面形状や断面の構造観察などの組織学的な側面から唇の情報は知られていたが、今回、唇の角層タンパク質の構成成分や比率、角層の菌叢などを網羅的に解析することによって、唇のケアには皮膚科学やスキンケアの視点に加えて、唇から連続して存在する粘膜の視点からもケアするアプローチが重要であると考えられた。
さらに、唇の粘膜を健常に維持・改善するために、唇のバリア機能を高める成分としてヒアルロン酸を見出した。一般的な皮膚の性質に加えて粘膜の性質も併せ持つ唇に対して、この成分を与えることで、唇のバリア機能を高め、荒れにくく、潤った唇を維持できることが期待される。
今後も唇の性質を詳細に解明する研究を進め、唇を健やかな美しさへ導く革新的な価値を創出していく。
唇は一般的な皮膚とは異なり、角層がより薄く、皮脂膜を形成しにくいなどの特徴を持っているため、バリア機能が非常に弱く、「乾きやすい」「荒れやすい」といった悩みが多い部位となっている。そのような悩みを解決するためには、唇研究に基づいた正しいリップケアを開発することが重要となるが、化粧品領域における唇の研究は皮膚研究に比較して進んでおらず、特に唇の角層タンパク質や菌叢の詳細情報はこれまで明らかになっていなかった。
そこで同社は、従来の免疫組織染色法だけでなく、網羅的な分析手法であるプロテオーム解析・マイクロバイオーム解析を実施し、唇の性質をさらに詳細に解明する研究に着手することにした。
頬・下唇の角層をそれぞれ採取し、プロテオーム解析によって角層中のタンパク質を網羅的に分析したところ、合わせて約500種類ものタンパク質を検出した。これらのタンパク質について、主成分分析による解析から、頬と下唇の角層のタンパク質の組成や存在量が大きく異なっていることを明らかにした。その中でも、口腔内の粘膜に多く含まれるたんぱく質(粘膜型ケラチン)は、頬の角層よりも唇の角層に多く存在していた。
次に、頬・下唇・口腔粘膜のそれぞれから菌叢試料を採取し、マイクロバイオーム解析によって各部位に存在する細菌を網羅的に分析した。
その結果、合わせて4000種類以上の細菌由来DNAを検出した。この結果を菌叢間の類似性に基づく主座標分析によって解析した結果、下唇の細菌叢は、頬よりも粘膜に類似しているという結果が得られた。
以上、プロテオーム解析とマイクロバイオーム解析の結果から、下唇のタンパク質、菌叢、双方の観点から唇の近傍に存在する粘膜の性質を持つことが明らかとなった。このことから、健やかな唇を保つためには唇の粘膜を健康に維持する視点が重要であることが示された。
さらに、粘膜の性質を持つ唇をケアすることが可能な原料を探索した結果、肌の潤い保持効果の高い成分として知られているヒアルロン酸に、粘膜のバリア機能を高める効果があることを新たに見出した。
粘膜の性質も併せ持つ下唇にこの成分を与えることで、唇のバリア機能をさらに高め、荒れにくい潤った唇を維持できることが期待される。